“ケンカ上手”橋下市長の「慰安婦制度は必要」発言はわざとなのか?窪田順生の時事日想(1/3 ページ)

» 2013年05月21日 08時01分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

窪田順生氏のプロフィール:

1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。


 橋下徹市長が全方向からボコボコに叩かれている。

 5月13日、退庁時のぶら下がり会見で、「慰安婦制度は必要だった」と発言したことが大炎上してしまったわけだが、一連の報道を見て、マスコミの“世論誘導力”の高さにただ関心している。

 橋下氏と記者のやりとりを改めて読み返してみても、大騒ぎするほどのことは言っていない。例えば、橋下氏は慰安婦制度についてこう述べている。

 「軍を維持するとか軍の規律を守るためには、そういうことが、その当時は必要だったんでしょうね」

 日本の軍隊に慰安所があったのは、さまざまな歴史資料や当時の証言から見ても動かし難い事実だ。存在したということは、当時の軍隊が必要だと思ったからつくった。なにも間違ったことは言っていない。

 橋下氏に「世界各国の軍は活用していたというが、それは具体的にどこの国が?」なんて調子で、必死に失言を引き出そうとしていた記者たちは知らないだろうが、彼らの先輩もそんな「現実」を目の当たりにしている。朝日新聞の木更津支局長だった明石清三さんの『木更津基地――人肉の市』(洋々社)には、「慰安制度が必要だ」と訴える米軍将校3人が1945年9月12日、木更津市長室に武装して押し掛けた、と記されている。そしてその将校は「女を提供してもらいたい。すぐ血液検査をする。30人以上」などと迫ったという。

 このままだったら何をされるか分からんということで、戦時中に海軍の飛行機搭乗員を得意客としていた「海軍慰安所」の女性たちが引き受けることになった。話が決まると、警察署長は「この町の治安維持のため唐人お吉※と同じ働きをされるのです。お願いします」とあいさつをした。

※唐人お吉(とうじんおきち):幕末、日米条約締結のため伊豆下田に来航したハリスの愛妾として仕えた。

 2013年の人権感覚からすればまったく許されざる行為だが、これを拒否するという選択は敗戦国・日本にはなかった。慰安婦制度はなにも日本軍だけではなく、占領軍も必要とした。このような「過去の現実」について橋下氏は言及しただけだ。

「慰安婦制度は必要だった」発言の報道を見ていると、マスコミのポテンシャルの高さがうかがえた(写真はイメージ)
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