外交力が第2次安倍内閣の行方を左右する藤田正美の時事日想(2/2 ページ)

» 2013年05月08日 15時53分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]
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憲法9条改正が持つ意味

 健康問題で早期退陣するのはやむを得ない。それは、一度苦い思いをした人を総裁に選んだ自民党の責任である。しかしもし健康に問題がないのなら、安倍首相は「憲法改正」や「歴史問題」を封印しつつ、日本の立場を経済的に、そして外交的に強めることに専念すべきだと思う。自衛隊を国防軍と呼称を変えることにこだわれば、やがては北朝鮮の核化とともに、日本が核兵器を開発するのではないかという疑念も強まるだろう。

 なぜなら憲法上、「戦力はこれを保持しない」と書かれているから、日本の自衛隊は「戦略兵器」を保有していない。目的が「自衛」に限られるならば、禁止されている「戦力」に該当しないと考えるからだ。この9条第2項が外されると、少なくとも論理的には日本の自衛隊は戦略兵器を保有できることになる。例えば対中防衛ということになれば、最大の戦略兵器は、弾道ミサイルと核弾頭、それに原子力潜水艦だ。つまり米ソ冷戦時代のMAD(相互確実破壊)の考え方に基づく「核抑止力」である。

 核兵器を持ちたいと本気で思っている日本人は非常に少数だろうが、憲法9条の改正はそこまで道を開く可能性があるということを考えておかなければならない。そしてその可能性があるというだけで、米国も含めて多くの国は、日本の意思について疑問を持つだろう。

 もし日本が毎年2〜3%の成長を遂げる力があって、憲法改正の話をするならまだ理解できなくはない。しかし今の日本は、人口の減少によって潜在成長力が下がっている上、1990年代終わりごろから生産年齢人口(15〜64歳)が減り始めたことで消費も落ちている。長引いた円高を背景に日本から工場が脱出し、雇用も失われている。そしてそれを打ち破るだけのイノベーション力が日本企業にあるとは言い切れない状況だ。

 そうなればなるほど、まさにその立場を強化し維持するための外交力が必要だ。そのためには喫緊の課題とは言いがたい憲法改正を前面に出す必要があるのかどうかを再検討することが必要だ。麻生副総理は靖国に参拝したとき、参拝が外交に影響するとは思わないと語った。しかし中国や韓国は参拝に反発し、それぞれに国の閣僚が会える国際会議に欠席してきた。

 安倍首相は「こちらの窓口は常にオープンである」と国会でも答弁したが、相手方が来にくくなるような状況をつくり出しているのなら、その言葉も空疎でしかない。安倍内閣が成立したとき、英エコノミスト誌は「危険なほどナショナリスト的な安倍内閣」と書いた。その懸念を打ち破るメッセージを発することができるのは安倍首相その人でしかない。そしてそれができるかどうかで、安倍政権の寿命も決まるかもしれないのである。

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