外交力が第2次安倍内閣の行方を左右する藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2013年05月08日 15時53分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 「3本の矢」のうち、金融緩和と財政出動の2本まで放った安倍政権。いまのところ2001年に成立した小泉政権を思わせるぐらい絶好調だ。民主党政権でぎくしゃくさせてしまった米国ともペースを取り戻したようだし、ASEAN(東南アジア諸国連合)には首相はじめ閣僚が足繁く通うようになり、ロシアとの関係も改善の方向に向かっている。TPP(環太平洋経済連携協定)の交渉にも参加できることになり、何となくいろいろ置いてきぼりになっていた状況からは脱却できそうだ。

 しかし中国との関係はこじれたままだ。韓国は一時、改善方向に向かっていたのが、安倍政権の閣僚による靖国参拝によって、再びこじれてしまった。さらに従軍慰安婦に関するこれまでの姿勢を見直すという姿勢が明らかになると、米国からも「見直しは日本の利益にならない」という弾丸が飛んできた。

 参議院選までは大人しく、というのが既定路線だったはずだが、支持率の高さに押されて、やや「暴走」気味なのかもしれない。支持率が高いのは、閉塞感に蝕まれてきた日本経済を何とか立て直してくれるという期待感からだ。憲法改正やら国防軍やら「侵略の定義」の見直しを期待しているわけではない。

 ただ安倍政権にとってラッキーなのは、国民の誰も、安倍首相が1年やそこらで退陣するような状況を望んでいないということだ。それは単純な事実による。次の首相と思える人が、政界にいないのである。3年以上、政権を担当した民主党は、あまりにも未熟な政党だった。そしてバックにいた労組は、決して改革勢力ではなく、既得権益の代表者であることも明らかになった。自民党の中も世代交代の最中だが、政治力が伴った人材がいない。

 このような状態の中で、再び短期政権を繰り返せば、それこそTPPも頓挫しかねないし、ロシアとの交渉などまた長いトンネルに入ってしまうことになるだろう。そうなったら、日本は自らの安全保障に関して、米国にすがるしかないという、それこそ情けない立場に自らを置くことになる。その意味で、安倍首相には何が何でもそれなりに長期政権になってもらわなければならない。

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