ちなみに同じ英語圏でも、英国は違います。Mr. やMrs. を使うケースが多く、ファーストネーム一本やりで行こうとする志向の強い米国人とは一線を画しています。いまだにある種の貴族制度があり、女王陛下がサー(Sir)の称号を下賜する国ですから、ミスターは街でもよく聞かれます。
日本には「呼び捨て」という考え方があります。同じ会社に属していて、ほかの会社の人に対して使うような場合、いわゆる身内ということで呼び捨てになりますが、一般的には「田中」にしても「弘」にしても「さん」を付けずに呼ぶとマナー違反ということになります。
また、かつては犯罪者も呼び捨ての対象になることがありました。最近は、容疑者とか被告とか受刑者といった言葉が名前の後につくようになりましたが、昔は犯罪者になれば呼び捨てでした。
ところが米国では犯罪者を姓で呼ぶときには、Mr. とかMs. という言葉を付けます。ニューヨークタイムズの記事を引いてみます。
The convictions of Mr. Mullet, along with several relatives and others from his settlement who carried out the assaults, could bring lengthy prison terms.
これは、「ミスター・マレットと同集団に属する親族数人など、今回の攻撃を行った関係者に対する告発は、相当長い刑期をもたらす可能性がある」という内容です。
マレットという人物に、Mr.がついていることに注目してください。これは敬称というよりは、この人が男性であることを示すために使われているだけで、Mr.は日本語の「氏」とか「さん」という言葉とは違う機能を持っていることを示しています。結構、ややこしいですね。
1947年、山梨県生まれ。一橋大学社会学部卒業、スタンフォード大学コミュニケーション学部修士課程修了。日本と米国で、出版に従事。カリフォルニアとニューヨークに合計12年滞在。講談社アメリカ副社長として『Having Our Say』など240冊の英文書を刊行。2000年に帰国。現在は、外資系経営コンサルティング会社でマーケティング担当プリンシパル。異文化経営学会、日本エッセイストクラブ会員。
主な著書に『和製英語が役に立つ』(文春新書)、『外資で働くためのキャリアアップ英語術』(日本経済新聞社)がある。
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