ハフィントン・ポスト日本版オープン 読者参加による「ポジティブで良質な言論空間」へのチャレンジ

» 2013年05月07日 19時03分 公開
[小林伸也,ITmedia]
photo ハフィントン・ポスト日本版

 ニュースサイト「ザ・ハフィントン・ポスト」日本版が5月7日、オープンした。ブロガーによるブログ記事と編集部などによるニュース記事に加え、読者からのコメントを重視。誹謗中傷などは削除するなどし、寄稿者やユーザー間で建設的な議論が行われる「良質な言論空間」を目指していく。米国版創設者のアリアナ・ハフィントン氏は「対話に参加してほしい」と、コメント投稿などでコミュニティーに積極的に参加するよう、日本の読者に呼び掛けている。

 米Huffington Postと朝日新聞社が共同で運営。まず政治、経済、国際、社会の4テーマをカバーし、ジャーナリストの佐々木俊尚さん、ジャーナリスト/メディアアクティビストの津田大介さん、起業家の堀江貴文さんら約70人のブロガーによる寄稿と編集部の独自記事、通信社の配信記事などを掲載する。

 オープンした同サイトには早速、佐々木俊尚さんによる「ハフィントンの上陸は、日本のメディア空間を変えるか?」、映画監督の森達也さんによる「地下鉄サリン事件がテロだったと誰が断言できるのか?」といった寄稿や、「『育休3年』って誰のため?安倍首相の子育て支援策に批判噴出」といった編集部記事が掲載されている。

ポジティブな対話の場に

photo アリアナ・ハフィントン氏(右から3人目)と松浦編集長(右から4人目)、朝日新聞社の木村社長(右から2人目)

 「サイトを見て、従来のニュースサイトとあまり変わらないという印象を持たれたのではないか」と松浦茂樹編集長は言う。「では何が違うのか。それはユーザーの声だ。従来のニュースサイトとは異なり、ユーザーによるポジティブな意見交換を目指している」という。

 The Huffington Postは2005年5月、作家のアリアナ・ハフィントン氏が創設。ニュース記事と論説的なブログ、ソーシャルコメントが融合したニュースサイトとして成長し、米国では1月時点で月間4600万人が訪問。月間投稿件数は800万件と、ユーザーによるコメント投稿も活発に行われている。誹謗中傷など、規約に反するネガティブなコメントは人力を含めた手段を活用して削除しているのが特徴の1つだ。

 日本版でも、コメントの投稿に当たってはガイドラインの順守を求めていく。ガイドラインによると、コメントは事前承認制とし、「直接であれ間接であれ他人を攻撃、中傷または侮辱することは容認しません。また議論の脱線、乗っ取りまたは相手が感情的に反応するよう仕掛けることも容認しません」とし、こうしたコメントは削除することを明記。また「コミュニティの各メンバーは、コミュニケーションのレベルを向上させるとともに、コミュニティの品位を落とすサイト荒らしをなくすことに協力する権限と責任があります」と参加者への協力も求めている。

 コメント投稿を受け付けている日本のニュースサイトでは、誹謗中傷や差別的なコメントで埋まってしまうケースが多かった。松浦編集長は「日本のニュースサイトにはコメントはいらないのではないかと、絶望的な気持ちになったこともある」が、Huffington Postでは「ネガティブなコメントは淘汰され、前向きなコメントが残る。その仕組みに未来を感じた。日本版でも同じことができるのではないか。チャレンジすべきはこの点ではないかと考えた」という。

 ジャーナリストの藤代裕之さんがYahoo!ニュース個人に公開した「ハフィントン・ポスト日本版は失敗する」という記事が公開されたが、「記事を読んだが、愛があふれる叱咤激励だった。改善すべき点はユーザーの声を聞き、次のステップに進めれば」と批判も歓迎。「ポジティブに日本の未来を語る場としてスタッフ一同盛り上げていきたい」と意気込み、特に団塊ジュニア世代からの発信を促していきたいという。

 来日したアリアナ・ハフィントン氏は「日本の変革の瞬間を迎える時にハフィントン・ポストを公開できることをうれしく思う。みなさんの声を日本中から出して欲しい。コメントを歓迎する」と話し、「もっと対話を育みたい。米国の例を見ればそれができることは分かっている」と期待する。意見だけではなく、ユーザーそれぞれが生きている、それぞれの立場からの「自分の物語」を語ってほしいと呼び掛ける。「ブログを書く人に階層やヒエラルキーはない」

 朝日新聞社の木村伊量社長は「紙の新聞は一方的な情報の供給者としての側面が強かった」とし、「ネットで言論空間を作る推進力に期待している。公平性、信頼性を兼ね備えた質の高いコンテンツと、読者の肉声の数々が言論空間を形作ると考えている」と、新聞的アプローチとは異なる、ネットとソーシャル時代ならではのニュースメディアに期待を寄せた。

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