神田エリアの再開発、「ワテラス」に見る地域コミュニティの再生ストーリー(2/4 ページ)

» 2013年04月26日 08時00分 公開
[吉村哲樹,Business Media 誠]

地域の衰退に危機感を覚えた住民がみずから立ち上がる

 ちなみにワテラスは、これまでの再開発プロジェクトではあまり例がない特徴をいくつか持つ。その1つが、地域住民による活動が発端となって始動したという点だ。

 神田淡路町といえば、都心のど真ん中にありながらも、昔ながらの下町風情を残した地域として知られていた。しかしその裏では、少子高齢化や人口減少などによる地域コミュニティの停滞が長らく課題になっていたという。こうした状況に対して危機感を抱いた地域住民によって結成されたのが、「淡路町二丁目西部地区市街地再開発組合」(以下、再開発組合)だった。

 そして、同組合の活動の中心的役割を担ったのが、長らく地域コミュニティの核として機能していた淡路小学校の卒業生たちだった。ちなみに淡路小学校は、地域人口減少と少子高齢化に伴う生徒数減少により、1993年に廃校(芳林小学校と統合、後に現在の昌平小学校となる)となっている。そして、現在ワテラスが建つ土地は、実はかつて淡路小学校があった場所なのだ。

ワテラス 再開発組合の理事長を務める呉豊明さん

 再開発組合の理事長を務める呉豊明さんも、同校の卒業生の1人。説明会で挨拶に立った呉さんは、地域再開発の発端となった出来事について次のように振り返る。

 「淡路小学校は1976年に開校100周年を迎えましたが、その記念行事として行われた卒業生座談会で淡路地域の将来を危惧する声が相次いだことをきっかけに、地域再興に向けた取り組みが始まりました。さらにその後、1993年に淡路小学校が閉校するに至り、危機感がより一層高まった結果、いよいよ再開発の話が具体的にスタートしました」

 こうして、地域住民が自ら始めた地域再興の動きが、やがては行政や関係各所を巻き込み、ついにこのたびワテラスの完成という形で結晶したというわけだ。ちなみに、ワテラスコモン内に設けられたカフェラウンジ「Terrace8890」の天井は、大変ユニークな造形になっているが、これはかつてこの地に建っていた淡路小学校の講堂の天井デザインを模したものなのだという。

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