インタビュー
» 2013年04月10日 08時01分 UPDATE

仕事をしたら“新薬”ができそうだ(後編):日本で起業するのはなぜ難しいのか――アメリカのほうが優れている点 (1/7)

「会社を立ち上げる際、日本よりも米国のほうがやりやすい」――。こういった声をよく聞くが、なぜ米国のほうが起業しやすいのか。研究者という安定を捨て、米国で製薬ベンチャーを立ち上げた窪田良さんに、話を聞いた。

[土肥義則,Business Media 誠]

仕事をしたら“新薬”ができそうだ:

 「ドイさんに、ご紹介したい人がいてるんですよ」――。とある飲み会で知り合ったKさんから、いきなりこんな言葉をいただいた。

 で、どんな人なのかを聞いたところ、昔は眼科医で一流の腕を持ち、その地位を投げうって、現在は米国でベンチャー企業を立ち上げたという。その会社で、まだ誰もつくり出せていない新薬を開発しているそうだ。

 医者が脱サラして、起業……。しかも成功すれば40億ドル(約3730億円)規模の市場が待ち構えているとか。記者の脳内は理系に弱い構造をしているが、ビジネスを切り口にすればなんとか記事にできるかもしれない。読者もきっと興味を持ってくれるだろう。

 そんなことを考えながら、新薬はどんな症状に効くのかを聞いてみた。風邪薬? 胃腸薬? などと思っていたら「『カレイオウハンヘンセイ』という難病の治療薬なんですよ。ではアポもとれましたし、取材、よろしくです♪」(Kさん)

 カレイオウハンヘンセイ? 正直に言って、初耳である。漢字にすると「加齢黄斑変性症」となるそうだが、この漢字を見てもどんな病気なのかさっぱり想像できないのだ。

 いくらなんでもなにも知らないまま話を聞くわけにはいかないので、Kさんからいただいた資料に目を通して、“一夜漬け”で臨むことに。多くの読者もこの「加齢黄斑変性」という病気を知らないと思うので(たぶん)、ここで簡単に説明しておこう。


 今回、インタビューに応じていただいたのは、製薬ベンチャー企業「アキュセラ社」の創業者・窪田良さん(会長・社長兼CEO)。加齢黄斑変性とは目の病気で、「ドライ型」と「ウェット型」の2種類ある。「ウェット型」には眼球注射という治療方法があるが、「ドライ型」にはまだない。窪田さんが開発しているのは「ドライ型」なので、成功すれば世界初の治療薬となるわけだ。

 加齢黄斑変性を患うと、視野の中心部から徐々に見えづらくなり、悪化すれば失明に至る。老化や喫煙などが危険因子とされていて、患者数は世界で約1億2000万人いると言われている。欧米では50歳以上の失明原因のトップを占め、日本でも患者数が増えているのだ。

 窪田さんは慶應義塾大学医学部で博士号を取得し、眼科医に。1997年に緑内障の原因遺伝子である「ミオシリン」を発見し、国内外で高い評価を得た。2000年に渡米し、ワシントン大学で助教授を務め、2002年に起業。当初はシアトルの自宅で研究などを行っていたが、現在では社員80人余りの規模まで育て上げた。その窪田さんに、新薬をどのように開発しているのか、会社をどのように運営しているのか、などを聞いた。聞き手は、Business Media 誠編集部の土肥義則。前後編でお送りする。


決算書が読めなかった

土肥:窪田さんは、医者をやってきて、米国で治療薬を研究されてきました。窪田さんのような経歴の人を日本ではあまり聞いたことがないのですが、米国では多いのでしょうか?

窪田:米国でも一般的ではないですね。医学領域の人が起業するケースは、ものすごく少ないです。しかも私のように、医者が会社をつくるなんてさらに少ないと思います。そもそも経営者としてのトレーニングを受けていませんからね。

土肥:そこでおうかがいしたい。前編でもチラッと触れましたが、創業当時の窪田さんは決算書を読めなかったそうですね。

窪田:はい。全く分かりませんでした(苦笑)。

土肥:「さあ、会社を立ち上げるぞ! 事業計画はこうこうこうで」という段階になって、“決算書が読めない”ではいろいろ苦労されたのではないでしょうか。例えば「社長、売り上げはどのくらいを見込んでいますか? 営業利益は? 最終利益は?」と社員から聞かれたときに、困りませんでしたか?

窪田:英国の実業家で “航空業界の風雲児”として注目を集め続る人物も創業当時は、決算書を読めなかったと聞いています。もちろん経営者としては決算書を読めたほうがいいのでしょうが、読めない人もそこそこいると思うんですよ。私たちがかりに失明を治療できる薬を開発できれば、売り上げや利益は必ずついてくるものだと考えていました。

 では決算書が読めなくて、会社をどうやって切り盛りすればいいのか。数字に強い人を配置して、やっていくしかないんですね。経営者にすべての能力が備わっているわけではありません。自分が欠落している能力を、会社の誰かが補ってくれる。そこが組織として、大切なポイントになってくるのではないでしょうか。

yd_kubota2.jpg アキュセラ社・創業者の窪田良さん
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