「社会主義が最も成功したのは、日本」と皮肉られているワケ窪田順生の時事日想(2/3 ページ)

» 2013年04月09日 08時01分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

 といっても、この手の人たちは、ホームレスを「派遣切りされた労働者だ」なんてインチキもやった前科もあるので、ただ騒ぐだけでは説得力がない。そこで持ち出したのが、「OECD(経済開発協力機構)の雇用保護指標」だ。確かに、朝にクビを宣告されたら昼には出ていく米国や英国なんかと比べたら雇用が保護されているほうだが、ドイツやフランス、そして北欧に比べるとちっとも優しくない。「クビの規制緩和」なんてとんでもない、もっと雇用保護したっていいぐらいじゃないか、と。

 ただ、この理屈もちょっとおかしい。日本の雇用はもうずいぶん昔から米国や欧州なとと比べられない「異次元」の世界に突入しているからだ。

 それは「終身雇用」である。

「終身雇用」発明したのは

 いろんな方面で言われているように、こういう雇い方をしている国はほとんどない。いろいろ叩かれた中国の国営企業ですら、1990年代には終身雇用をやめたほどだ。

 なんてことを言うと、終身雇用が「日本の強さ」のヒミツだった、とか言い出す人たちがいる。先週、某情報番組でもやっていたが、「企業は人なり」というお約束の格言と、松下幸之助が登場して、日本企業は社員を大切にして社員は会社に人生を委ねたので、一体感ができてみんな汗水たらして働いた。身分保障されていたので、心置きなく消費もできた、なんて話である。

 だが、終身雇用というのは、なにも経済人のみなさんがやりだしたわけではない。1939年に制定された「国家総動員法」のなかにある「会社利益配当及資金融通令」や「会社経理統制令」で株主や役員の力が剥奪され、国のコントロールのもと、とにかく生産力をあげるために企業という共同体に国民を縛り付けておくひとつの手段として始まった。

 ついでに言えば、これはなにも日本人の発明ではなく、世界恐慌をのりきったソ連の「計画経済」をまんまパクったものである。国が経済発展を計画的に進めて、国民は国が規制をする企業に身を投じて一生涯同じ仕事をする――。そんなソ連モデルが日本人にはフィットした。日本が「世界で最も成功した社会主義」なんて揶揄(やゆ)されるのはそれが所以だ。

 要するに「終身雇用」は日本式経営でもなんでもなく、単に戦時体制につくられた社会主義的システムをズルズルとひきずっていただけだ。だから、小泉改革みたいな新自由主義経済が流れ込むと、ソ連のように崩壊していく。さらには、そういう思想をもとに築き上げられたインフラなんかも音をたてて崩れていく。日ソ両国がともに原子力を制御できず、どでかいヘマをしたのは単なる偶然ではない。

 そういうガレキの山を見れば、もうとっくに「終身雇用」が終わっているのは明らかだ。

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