なぜ北総線の運賃は高いのか “円満解決”の方法を考える杉山淳一の時事日想(4/6 ページ)

» 2013年04月05日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

北総鉄道の運賃はなぜ高いか

 北総鉄道の運賃について、原告側は事業者の北総鉄道ではなく国を訴えている。理由は鉄道運賃の決め方にある。国が、鉄道会社のコストに応じて適切な利益となるように「上限運賃」を設定する。その範囲内で北総鉄道が運賃を決める。北総鉄道は国の決定に従い、適法に運賃を定めているから争点にならない。だから国が決めた上限運賃に問題があると訴えたわけだ。

 それでは、上限運賃決定の要素となった北総鉄道のコストはなぜ高いのだろうか。建設費の借金と返済額が最も大きいが、他にもまだある。投資が過剰となったことだ。乗客が少なければ、それに見合った規模の駅や電車の数で運行すればいい。しかし千葉ニュータウンの利便性を考えると都心へ直通させたい。そうなると、京成押上線、都営浅草線、京急電鉄線に合わせて8両編成にする必要がある。また、相互乗り入れでは電車の使用料を各社の電車の走行距離で精算するから、自前の電車を持つ必要もある。自社線内の乗客数より過剰な投資になってしまう。

 線路使用料の問題もある。実は、北総鉄道が自前で持っている線路は京成高砂―小室間だけ。小室―印旛日本医大は千葉ニュータウン鉄道が保有し、北総鉄道が使用料を払っている。千葉ニュータウン鉄道は、かつては都市基盤整備公団(現・都市再生機構)の住宅・都市整備公団線で、北総開発鉄道に運営を委託していた。千葉ニュータウン中央駅から日本橋へ向かうには、都市基盤整備公団、北総開発鉄道、京成電鉄、都営地下鉄と4回も初乗り運賃が加算された。もともと運賃が高くなる路線であり、それが千葉ニュータウン不人気の理由ひとつと言われた。

 1988年に鉄道事業法が施行され、住宅・都市整備公団線は鉄道施設を保有する会社となり、北総開発鉄道が鉄道運行の主体となった。いままでは住宅・都市整備公団から委託料をもらう側だったが、逆にお金を払って線路を借りる立場になった。2004年の小泉内閣による行政改革で都市基盤整備公団は都市再生機構に変わり、同時に鉄道事業から撤退。小室―印旛日本医大は京成電鉄が譲受して千葉ニュータウン鉄道となった。

 北総開発鉄道はこれを機に北総鉄道と社名を変え、自社の親会社が持つ隣の路線に線路使用料を払っている。その額は約20億円という。京成電鉄は千葉ニュータウン鉄道を約150億円で譲受しており、それを年間約20億円で北総鉄道が借りている。線路使用料は通過車両数の精算が通例だ。乗客数や売り上げではなく、空箱同然で運行する8両編成の車両数で精算しているとすれば、ここにも相互直通のための過大投資が響いている。もっとも、千葉ニュータウン鉄道からは線路保守委託費としてその8割程度が支払われているという。仮に全列車を4両で運行すれば線路使用料は約半額となり、受け取る線路保守費用で利益が出る。

北総鉄道の位置。都心寄りの青色は京成本線、赤色が北総鉄道の営業区間、紫は成田高速鉄道アクセスと成田空港高速鉄道が保有する線路
線路保有者と運行事業者の関係。タテの点線は線路使用料の支払いを示す

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