なぜ北総線の運賃は高いのか “円満解決”の方法を考える杉山淳一の時事日想(3/6 ページ)

» 2013年04月05日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

多摩ニュータウンになれなかった千葉ニュータウン

 同じ千葉県のニュータウン開発では、規模が小さいとはいえ、山万のユーカリが丘が成功している。山万は新交通システムのユーカリが丘線を運行している。この路線は不動産事業の付帯事業で、収支は明らかにされていないが利用客は多い。大阪では大阪府都市開発が泉北ニュータウンの開発に合わせて泉北高速線を運行している。この路線は成績優秀で、大阪府は民営化を検討し、接続路線を運行する南海電鉄が名乗りを上げている。

 多摩ニュータウンの場合は、小田急電鉄と京王電鉄が支線として新線を建設している。これらの新線は単独会計ではなく、鉄道事業全体のひとつに位置付けられている。運賃も本線とほぼ同じ水準だ。新線の開業当初は赤字かもしれないが、本線の乗客増加が見込めるし、将来は乗客が増えるから先行投資といえる。さらに、グループ企業によって、本線分岐駅から多摩センターに至るまでの沿線開発やバス事業も実施できた。これと多摩ニュータウンとの相乗効果で、小田急電鉄と京王電鉄はさらに先への延伸も達成している。

 千葉ニュータウンも当初は多摩センター方式で鉄道を誘致した。当初は京成電鉄が中心となって運営する計画だった。しかし、京成電鉄にはそれができない事情があった。成田空港アクセス路線を建設したものの、成田新幹線計画に阻まれて空港ターミナルに到達できず、空港敷地内に駅(現在の東成田駅)を造った。そこで初代スカイライナーを走らせようとしたものの、空港反対運動によって6年間も開業が伸ばされ塩漬けとなり、車両に放火までされてしまう。他の沿線開発事業も進まず、経営危機に陥っていた。

 京成電鉄が単独で千葉ニュータウン路線を建設できないため、この路線は千葉県や地元自治体が出資して北総開発鉄道として発足した。京成が50%の株を持っているため第三セクターではないが、京成電鉄とは別の会社となった。北総鉄道は新規建設区間単体で収支を算出しなくてはいけない。また、新しい北総鉄道には、沿線開発事業や付帯事業がなかった。コストはすべて運賃に反映させるしかなく、グループ会社による相乗効果もない。

北総鉄道の千葉ニュータウン内区間。線路と並行する用地は成田新幹線計画の名残

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