なぜ北総線の運賃は高いのか “円満解決”の方法を考える杉山淳一の時事日想(1/6 ページ)

» 2013年04月05日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。


 北総鉄道運賃訴訟の報道で驚いた。北総線の駅前のコンビニやビデオレンタル店横の自販機で、回数券のバラ売りが行われているという。回数券は本来、たくさん乗ってくれる人やグループでシェアするような用途を前提として販売されている。転売は約款でも禁止されていると思うのだが、黙認状態とは異常事態である。それどころか、某コンビニには市長からの表彰状が飾られている。内容は「回数券を販売することによって、市民の移動手段に貢献している」といったものだ。

 北総線の千葉ニュータウン中央駅から都営地下鉄浅草線の日本橋駅まで、半年間の通勤定期代が24万1660円。このうち17万480円が北総鉄道の運賃だ。ちょっといいPCが買える金額である。日本では通勤交通費は会社持ちという習慣があるものの、雇用の流動化で正社員以外は交通費が支給されない事例も増えている。通学定期の割引率も低く、同区間の半年間の定期代は10万5800円。こちらは家計を直撃する。さすがに自治体からの通学定期補助があったが、それも平成21年度で終わってしまった(成田スカイアクセスが開業した平成22年7月から、25%値下げされた)。こうなると、家賃や住宅ローンの支払いが多少高くても、都心に住み替えたほうが良さそうだ。

北総鉄道、京成電鉄、JR東日本総武線の運賃比較

初乗り 比較(1) 値段 比較(2) 値段
北総鉄道 190円 京成高砂―新鎌ヶ谷(12.7km) 540円 京成高砂―千葉ニュータウン中央(23.8km) 720円
京成電鉄 130円 京成上野―京成高砂(12.7km) 250円 京成上野―海神(23.6km) 360円
JR東日本 140円 千葉―津田沼(12.5km) 210円 千葉―市川(23.8km) 380円

 北総鉄道の設立は千葉ニュータウンの開発のためだったというが、その千葉ニュータウンの開発が目論見通りに進まなかった。これが北総鉄道の集客にマイナスとなり高額運賃となったという。しかし、その高額運賃が理由で千葉ニュータウンが不人気になっているとも言える。負のスパイラルである。

 ややこしいことに、実は北総鉄道の経営は赤字ではない。むしろ2000年から12期連続の黒字である。赤字ローカル鉄道なら高額運賃も仕方ないと思えるが、経常黒字と聞けばボッタクられた気がする。しかし、北総鉄道には黒字でも値下げできない事情がある。建設時の借金が約900億円あり、数十億円が返済と金利に当てられているからだ。2012年度に債務超過を解消できたとはいえ、北総鉄道の借金苦は続いている。

 住民も北総鉄道も困っているなかで、千葉ニュータウンの事業主体である千葉県と都市再生機構は、2013年度、つまり来年3月まで千葉ニュータウン事業から撤退する予定だ。北総鉄道の高額運賃を招いた責任は誰が取るのだろう?

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