アベノミクス、第3の矢はどこに向かう?藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2013年04月01日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 安倍政権が成立してほぼ100日だ。米国では大統領が就任して100日までは、大統領とメディアのハネムーンとされ、意地悪な政権批判は控えられる。というよりメディアは政策を見定めようにも、その効果はまだ出ていないから実のある批判はしにくいということかもしれない。

 アベノミクスは、実際問題、まだ何も具体的なことはしていない。日銀の黒田新総裁にしても、今週、初めての金融政策決定会合が開かれ、そこで追加的な金融緩和策(例えば満期までが3年を超える国債も買い入れるなど)を決める。つまり具体策としてはそれが初めてだ。「機動的な財政支出」にしても、補正予算13兆円のうち実際に契約に至った金額はわずかなものだ。要するにこれからなのである。

 ここまで、株価を押し上げ、為替を円安に動かしてきたのは、金融がさらに緩和されるという期待だった。しかし、それも円が「相対的安定通貨」とみなされて買われていた状況が変わってきたという底流があったからである。欧州金融危機が落ち着き、かつ米経済が回復傾向を強めてきたからだ。

 問題はこの先にある。現在のような金融緩和は、どう考えても「異常事態」。金利ではなく、現金をだぶつかせることで経済を刺激するということが長続きはしない。市場にカネがあふれれば、やがては物価が上がるのだろうが、その前に資産価格が上昇してバブルになる可能性もある。実際、土地の価格にその兆しが見えている。ゴルフ場の会員権も上昇していると報道された。

 こうした資産価格の上昇が、一般の消費者の消費に刺激を与えるのならいいが、賃金が上昇して、消費まで波及するには時間がかかるだろう。しかも2014年には消費税の引き上げを控えている。

 黒田日銀総裁が「宣言」しているように(そしてノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン教授も賛同しているように)、2年間で物価上昇率2%という目標が達成されたとしよう。そのときの長期金利はどうなるのだろうか。金融緩和派は、国債を日銀が買えば長期金利を抑えることができると主張する。

 しかし長期的に物価が上昇することが現実のものになったとき、誰が0.5%で10年物の日本国債を買うのか。ひょっとしたらやがては円高を見込んで値上がり益を狙う外国人投資家が買うのかもしれないが、それはそれで逆目に出れば売りを誘いかねない。日本人投資家が実質マイナス金利で低利の長期国債を買うのは理屈に合わない。それでも日銀が長期国債を買い続ければそれは財政ファイナンスと見なされ、それこそ日本国債が信用を失う結果になるだろう。白川日銀が最も恐れていた事態である。

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