隠れ資産の有効活用は実現できるのか――貨物線旅客化の期待と課題杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)

» 2013年03月29日 08時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

羽田国際化で高まる貨物線旅客化要望

 東京近郊の貨物線が次々と旅客化されていくなかで、高島線や臨海部の鶴見―川崎貨物ターミナル―東京貨物ターミナル(大井ふ頭)についてはいまだ旅客化されていない。いわばJR貨物の聖域となっている。それも当然で、この路線はJR貨物にとって重要な路線だからだ。都心に直結する東京貨物ターミナルは全国からの貨物列車が発着する。周辺には大手運輸業者のトラックターミナルや、大消費地東京向けの青果、花きを扱う大田市場もある。通勤路線の電車には及ばないものの、貨物列車の運行本数は多い。

 臨海部の貨物線については、2000年に運輸大臣(当時)に提出された運輸政策審議会答申第18号で「今後整備について検討すべき路線」と位置付けられた。これを受けて「東海道貨物支線貨客併用化整備検討協議会」が設置され、実現に向けた検討が行われている。この協議会の動きは、2005年あたりから発信される情報量が減っていたと思う。

 しかし、2012年に品川から桜木町に至るルート構想が発表され、今年1月には識者を載せた臨時列車が運行された。前述のように3月にも運行されており、要望が活発化している。構想ルートでは貨物線の転用のほか、浜川崎駅から横浜山内ふ頭地域までの新線が含まれており、かなり積極的な提案となっている。この背景には東海道本線系統の旅客需要増大もあるが、最大の要因は2000年代から始まった羽田空港の再国際化にある。

 東海道貨物支線臨海ルートは、川崎から東京貨物ターミナルの間で羽田空港島の地下トンネルを経由する。そして、ちょうど京急電鉄と東京モノレールが接続する天空橋駅付近を通っている。かつて、JR東日本も貨物線を使った羽田空港路線整備を検討していたようだ。しかしこのプランはJR東日本が東京モノレールを子会社とし、羽田空港ターミナルに直結するアクセスルートを実現したため立ち消えになったという。

 東海道貨物支線臨海ルートが実現すると、根岸線沿線から羽田空港、東京都心へのアクセスが向上する。また、川崎・横浜臨海部の工業用地の転用も進むだろう。りんかい線と連携すれば、都心や千葉方面からみなとみらい地区へのアクセスも向上する。事業面でも有望であるし、臨海部貨物支線は高架区間が多いから、鉄道趣味的にも景色を楽しめそうで期待が大きい。工場夜景ファンも注目しているかもしれない。

東京貨物ターミナルから北側へ伸びる貨物線(左)、右はりんかい線の車両基地。これらの線路はつながっている

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