アニメビジネスの明日はどっち? 2012年アニメ産業速報アニメビジネスの今・最終回(2/4 ページ)

» 2013年03月26日 08時00分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

歴代興行収入2位となった劇場アニメ

 2012年は劇場アニメ大当たりの年だった。2011年は東日本大震災のため落ち込んだこともあって前年比46%増と大幅アップしたが、過去の年と比べても空前の興収を上げた『千と千尋の神隠し』があった2001年に次いで歴代2位、スタジオジブリ作品なしの年では1位となった。

 これは、ドラえもんを始めとする定番作品に加えて、『おおかみこどもの雨と雪』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』『ONE PIECE FILM Z』などが大ヒットしたことが背景にある。今まではスタジオジブリ作品に大きく左右された劇場アニメの興行収入だったが、ほかのスタジオも力を付けているということなのだろう。

2012年劇場アニメ興行収入(単位:億円、日本動画協会発表資料/集計対象2012年1〜12月)

 次表は2012年映画興行収入ベストテンだが、半分がアニメ。特筆すべきは40億円以上の非スタジオジブリ作品が3作もあることである。

 定番アニメとスタジオジブリ作品以外の大ヒットは希有という状況で、細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』が『コクリコ坂から』に迫る驚異的な興行収入を打ち立てた。さらに、11月には『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』がそれを上回る。そして年末にロケットスタートを切った『ONE PIECE FILM Z』が東映作品としては過去最高となる68億円を記録(まだ興業中のため売上は増えている)、年間ナンバーワンの『BRAVE HEARTS 海猿』に迫る勢いである。

 邦高洋低傾向が現れた映画の世界における2012年の邦画シェアは約66%だったが、その原動力がアニメであることは表を見ても理解できるだろう。前述したセミナーで私が作成したこの劇場アニメ興行収入を見て、氷川氏が「アニメ以外の洋邦実写映画もほとんどマンガかゲーム原作。要するに、全部マンガ、アニメ、ゲームじゃないか」という主旨の発言をされていたが、まさにその通りである。

2012年全体映画興行収入ベストテン(日本映画製作者連盟・日本動画協会発表資料)

順位 タイトル 興行収入 配給
1 BRAVE HEARTS 海猿 73億3000万円 東宝
2 ONE PIECE FILM Z  68億円〜 東映
3 テルマエ・ロマエ 59億8000万円 東宝
4 踊る大捜査線 THE FINAL 59億7000万円 東宝
5 ヱヴァンゲリヲン新劇場版 Q 53億円 カラー/Tジョイ
6 おおかみこどもの雨と雪 42億2000万円 東宝
7 バイオハザードV リトリビューション 38億1000万円 ソニー
8 映画ドラえもん のび太と奇跡の島 36億2000万円 東宝
9 劇場版ポケットモンスター 36億1000万円 東宝
10 アベンジャーズ 36億1000万円 ディズニー

過去最高を記録した劇場アニメ制作分数

 劇場アニメの制作分数についても触れておきたい。次図にあるように劇場アニメの制作分数が過去最高となった。テレビアニメの項で「制作分数はアニメ業界の投資状況を示している」と述べたが、劇場アニメについても同様のことが言える。

2012年劇場アニメ制作分数(日本動画協会発表資料より)

 劇場アニメの場合、制作分数の単価がテレビアニメの数倍なので経済的効果は非常に大きい。例えば、テレビアニメの実質制作分数単価は50万〜70万円(本編20分+αとして)だが、劇場版になると300万円以上となる。仮に300万円で計算したとしても、2012年は前年より1132分増えているので、34億円ほど制作投資が増えたことになる。

 また、劇場アニメは経済効果もさることながら、アニメのクオリティをアップさせる意味合いもあるので、業界としても歓迎すべきことだろう。

 グラフを見ても分かるように、劇場アニメの制作分数は2006年、2007年をバブル期による一時的な増大とみなせば確実に増えている。特に、2009年からの伸びが著しいが、これが意味するところは何か。

 テレビアニメで二次利用メディアであるビデオパッケージの伸張が望めなくなった近年において、リスクはあるものの、ファーストウィンドウから収益が得られる劇場アニメに産業界の関心が移っているとは言えるのではないか。あるいは、テレビ放映で得られた人気を確実に収益化(興行収入のみならず物販も重要)するウィンドウとなっているとも言えるかもしれない。

 いずれにせよ、映画館におけるODS(アザー・デジタル・コンテンツ)が増える中、劇場アニメがアニメのウィンドウ変化における大きな役割を担うことになることが予測される。

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