アニメビジネスの明日はどっち? 2012年アニメ産業速報アニメビジネスの今・最終回(1/4 ページ)

» 2013年03月26日 08時00分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

アニメビジネスの今

今や老若男女を問わず、愛されるようになったアニメーション。「日本のアニメーションは世界にも受け入れられている」と言われることもあるが、ビジネスとして健全な成功を収められている作品は決して多くない。この連載では現在のアニメビジネスについてデータをもとに分析し、持続可能なあるべき姿を探っていく。


 2012年4月に始まった連載「アニメビジネスの今」だが、今回で最終回となる。1年間に渡るご愛読に感謝する次第である。ということで、今回は2012年のアニメ産業データの速報値を読み解きながら、テレビ放映開始50周年となるアニメビジネスの明日について考えていきたい。

 なお、ここで紹介する速報値だが、調査が終わってないジャンルや、映画などではまだ興業中のものもあるため最終的な値からずれてくる。それに関しては9月発刊予定の『アニメ産業レポート2013年』をお待ちいただきたい。

テレビアニメの制作分数は3年連続増加

 テレビアニメの制作分数は前年度比11.1%増の10万6090分と3年連続で増加、回復基調が鮮明になった。

 常々述べていることだが、タイトル数の推移で制作実態はつかめない。例えば1話3分の作品と1話30分の作品は、タイトル数としてはそれぞれ1つだが、制作コストはまったく違ってくる。

 テレビアニメのほとんどが30分のシリーズ作品だった2000年代以前ならタイトル数で数えるのも有効だが、デジタル技術の進歩によって比較的簡単にショートアニメが制作されるようになった時代においては、制作分数に注目しなければならないのである。

2012年テレビアニメ制作分数(単位:分、日本動画協会発表資料より)

 テレビアニメはアニメ産業の主食であり、その制作分数が増えたということは非常に重要な意味を持つ。なぜかと言えば、制作分数を見ればアニメ制作に対する投資状況がうかがえるからである。つまり、制作分数が増えるということは、制作投資が活発であるということであり、さらに言えばアニメ産業界に資金が循環しているということなのである。

 1990年代中盤以降、急激に増え始めたアニメの制作分数は2006年をピークとして急降下したが、2010年をボトムとしてV字回復している。後述する「劇場アニメ」の制作分数を見ても、その傾向は明らかである。バブル気味だった2006年とその余波を受けた2007年を除けば、2012年は制作の質量ともに適正値に戻ったと言えるのではないか。

 ただし、これは過去の状況を踏まえた上での数値的な観点からの話で、3月21日に東京国際アニメフェアで行った「テレビアニメ50周年〜メディアの移り変わりと海外への広がり〜」で一緒に登壇した評論家の氷川竜介氏から、「現場の方は結構大変みたいですよ」という話をお聞きした。

 地デジやBlu-rayによる画質アップに対応するための作業(例えばモブシーンにおける、ひとりひとりの精細描写化など)が一段とハードになっているそうなので、もしこのまま制作分数が増え続けると、以前のように海外からの手助けがより一層必要になって来そうな気配である。まあ、その場合はうれしい悩みとなるのだろうが、制作分数の増加はクオリティ問題と表裏一体となっているということなのである。

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