「あり得ない」はゼロではない、今の日本に必要な危機管理藤田正美の時事日想(2/2 ページ)

» 2013年03月25日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]
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 それはいわゆる6者協議に見られるように、北朝鮮の後ろ盾である中国の影響力が着実に薄れつつあるからだ。実際、3度目の核実験にしても、中国は明確に反対の意思を北朝鮮に伝えたが、北朝鮮が実権を中止することはなかった。北朝鮮にしてみれば、核兵器を持つことで、中国や米国と対等に渡り合える国になることが重要だということだろう。

 北朝鮮の脅威に対して、果たして日本は備えができているのだろうか。もちろんPAC3やイージス艦搭載のSM3といった迎撃ミサイルは配備してある。しかし政府や国民はその脅威をどの程度感じているか、あるいはいなければならないのか。それが危機管理だ。それに北朝鮮からの攻撃は何もミサイルだけではない。サイバー攻撃のような攻撃する側にとっては「安上がり」のものもある。

 実際、韓国はサイバー攻撃によってテレビ局や銀行などが一時とはいえマヒした。日本に対して本格的な攻撃がなされれば、電力や交通網、通信網などに多大の被害が生じる可能性もある。韓国にサイバー攻撃をかけたのが北朝鮮であるという確証はないが、北朝鮮がその能力を持っていることは疑いない。

 重要なことはこうした脅威があって、それが現実のものになったときに、いったい何が起こるかというシナリオをできるだけたくさん描くことだと思う。シナリオを描いて、それに対する備えがあれば、パニックに陥らずにすむ。日本中の原発でも事故に備えて避難訓練が行われていた。訓練では、例えばオフサイトセンターに集まって対策本部を立ち上げるというようなことが行われる。

 しかし福島第一原発のときに何が起こったのか。オフサイトセンターに関係者が集結しても停電で使えなかった。そもそも原発でも全電源喪失などということは起こり得ないというシナリオしかなかったから(そしてそのシナリオがおかしいという指摘を無視してきたから)オフサイトセンターが停電になったときに右往左往してしまう。ここから得られる教訓は、ありえないと思われることでも起こり得るということだ。

 集団的自衛権や憲法改正を声高に唱えるよりも、実際にはこうした危機シナリオをどのように描くか、そしてそれを国民にどう説明するかのほうがよほど重要だし、役に立つと考える。そしてシナリオを描くときには、可能性の大きさを論じないことだ。対策を講じるときには、可能性が大きい順番に緊急度が高いという判断をするのは妥当かもしれない。しかしシナリオを描くときに可能性の大きさを入れると、シナリオ自体が「あり得ない」という判断を下されて、それ以上の進展がなくなるからである。

 原発に限らず、さまざまな場面で人は「あり得ない」と言う。だが多くの場合、あり得ないは可能性がゼロではなく、ゼロに近いというだけだということを忘れてはならない。そしてゼロでない限り、どんなにわずかな確率でも起こり得る。1000年に一度でも、100万年に一度でも、それは明日ではないという保証はどこにもない。

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