“誰得”なの? 西武鉄道の「赤字線切り」が始まっている杉山淳一の時事日想(2/4 ページ)

» 2013年03月22日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

投資会社が鉄道事業の廃止に言及

 では、誰が廃止したがっているというのか。

 西武ホールディングスの筆頭株主は、米投資会社のサーベラス・キャピタル・マネジメントである。廃止の理由は「西武ホールディングスの企業価値を上げるため」という。そこには、沿線の人々への配慮や、西武鉄道の公共交通への取り組みや地域への責任など、従来の赤字ローカル線問題にみられるキーワードは出てこない。株価を上げるために、不採算事業を切り離せ、という意向を、そのまま鉄道事業に当てはめただけ。ひどい話だ。

 前回、近鉄が赤字の内部線・八王子線をBRT(Bus Rapid Transit:バス専用道路を使った交通システム)に転換するという事例を紹介した(関連記事)。近鉄は鉄道を廃止しBRT化を進めるけれど、路線は維持すると言っている。サーベラスに比べたら近鉄はなんと良識ある会社だろうか。

 しかし、サーベラスが極悪人というわけではない。資産家の利益を守り、増やす。それが本業だ。資産家といっても大金持ちばかりではない。コツコツと働いた人々の年金だって預っているだろう。その意味では庶民の頼りになる存在のはずだ。

 ただし、利益を求めるあまり、鉄道事業などに余計な口出しをしてしまった。鉄道会社に鉄道を廃止しろと言うなら、なぜ鉄道会社の経営に参加したのか。そこには、金融ビジネスの分野で、鉄道会社の価値が低く見積もられすぎているという悪習慣がある。

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