なぜITによる営業効率化は失敗するのか?

» 2013年03月21日 08時00分 公開
[日沖博道,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:日沖博道(ひおき・ひろみち)

パスファインダーズ社長。25年にわたる戦略・業務・ITコンサルティングの経験と実績を基に「空回りしない」業務改革/IT改革を支援。アビームコンサルティング、日本ユニシス、アーサー・D・リトル、松下電送出身。一橋大学経済学部卒。日本工業大学 専門職大学院(MOTコース)客員教授(2008年〜)。今季講座:「ビジネスモデル開発とリエンジニアリング」。


 ちょっと刺激的なタイトルなので、特にITベンダーからの異論が多々あろう。いわく「ウチのSFAは高く評価されている」「顧客の多くは成果を上げている」と。確かに世の中のSFA(ITによる営業効率化)関連のセミナーやIT関連の記事には成功例が目白押しである。それらの例にケチをつけるほどの蛮勇は小生にはない。

 しかしそうした成功事例には随分前からSFAの実践に取り組んでいる企業・業界が多い。すでにベースとなる考え方や仕組みが社内でちゃんと出来上がっており(そのレベルに至る過程においては彼らも散々試行錯誤しただろうが)、プロセス運営上のさまざまなノウハウが蓄えられている。そこに新しい技術に基づく端末やソフトウエアが導入されて進化するのであるから、成功するのはある意味当然である。

 問題は、そうしたSFA実践経験のほとんどない企業が、ベンダーに提案されるままにSFAソフトとタブレットなどの最新端末を導入しようとすると何が起きるか、ということである。表面的な演出効果に囚われ、狙った「営業の底上げ、効率化」といった成果をまったく生まないばかりか、営業マンの思考停止とアリバイ作りにしか役立っていなかった例すらいくつか耳にする。

 確かに営業資料をわんさとバッグに抱えずとも関連資料、データを取り出せ、しかもすぐに見せることができるのは素晴らしい進歩である。しかし肝心なのは、きれいなカラー画面で説明がスムーズにできることより、顧客の意向や嗜好をいかに聞き出すか、そしてそれを正しく理解し社内の関係者に正しく伝えるか、である。そのためのプロセスが組み立てられているのか、そのための手段が準備されているか、である。多くのSFA導入プロジェクトではそこが取り残されているのである。

 あるITベンダー企業自身が自社の営業プロセス改革の中で図らずも気付いたのは、数年前に導入したSFAシステムが単なる「受注計上システム」化していた事実である。本来の、営業プロセスの途中で上司に相談・報告するための仕組みとして使っている者はごく少数で、大半の人間が受注処理の際にだけ(仕方なしに)使っていたのである。そのために億を超える投資と毎年数千万円の保守費というのが割高過ぎることはもちろん、社内で使いこなして顧客向けに提案するためのノウハウを貯めようといった「当初の狙い」はどこかに吹き飛んでしまったようだ。

 要は、「戦略的狙い」を忘れてしまって「手段」としてのIT導入に夢中になってしまうと、投資対効果が低いプロジェクトに多くの関係者が没頭することになり、しかも現場に手間と混乱を引き起こしかねないということである。これは営業改革に限ることではないが、避けたい事態である。(日沖博道)

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