長尾:そうですね。「前向きに善処します」を文字通りに解釈すれば、積極的、建設的に取り組みますとしかとれませんから、相手が「今後、いい方向に進むかもしれない」と期待するのも当然です。
でも、実際は絶望的な状況で、否定的な返事なんですよね。ただ、いい雰囲気の言葉を使って返事を先延ばしし、あいまいにしているだけ。
これは一種の社交辞令なんです。相手にいきなり否定的な返事をしてがっかりさせないための方便で、確約をしないで建前だけを述べたものです。
セイン:日本人はいきなり「NO」と言うのは失礼だと考えているんですか? そのほうがはっきりしていて時間も節約できるのに。
長尾:マイナスのことをはっきりさせないのが、日本人の昔からのメンタリティなんです。以前、『NOと言える日本』というタイトルの本がベストセラーになりましたが、それは日本や日本人がめったに「NO」と言わないことの裏返しだから売れたのでしょう。
日本人は和を大事にする精神を重んじ、謙虚を美徳とする社会で長い年月生きてきました。だから、正面から「NO」と言う行為は和を乱すと感じてしまうんです。役人や政治家の使う遠回しな言い方を「婉曲(えんきょく)表現」と言いますが、これはストレートに意味がわかりづらい半面、見方によっては場の雰囲気を乱さず、相手へのショックも和らげる「相手の気持ちを思いやった言葉づかい」でもあるんです。
セイン:なるほど! ほかにもお役所言葉はありますか?
長尾:そうですね、では、まとめてみましょう。
セイン:そういえば日本の政治家は、都合が悪くなるとすぐに「記憶にない」と言いますよね。なぜ素直に「忘れた」と言わないで、「記憶にない」とあいまいな言い方をするんですか?
長尾:さすがに「忘れた」と言ったら、無能だと思われるからですよ。でも「記憶にない」なんていう表現がまかり通るのは、あの世界だけですけどね。
(つづく)
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