これからの“死”の話をしよう(1/2 ページ)

» 2013年03月13日 08時00分 公開
[川口雅裕,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ


 数が少なくなると希少価値が生まれるので、人はそれを大切にするようになる。だから少子化によって、親にとっての子ども1人の価値が上がったわけだ。中国ではモンスター・ペアレンツが問題になっていて、そのクレームの付け方は日本よりはるかにひどいらしいが、それは一人っ子政策によって子の価値が上がった結果でもある。逆に、数が多くなると価値が低下するから、人はそれを軽く扱うようになる。

 国立社会保障・人口問題研究所によれば、死亡者数は2005年の108万人から、2010年に120万人に増えており、2030年には160万人になると予測されている。ということは、高齢化によって死のインパクトが低下し、だんだんと軽く扱われるようになっていくはずだ。

 2月中旬、85歳で亡くなった親戚の葬儀に参列した際、そのような変化を感じた。そこは田舎なので、10年ほど前までは故人の家にたくさんの村人が集まって、手作りで葬儀を執り行っていたが、今では葬儀場に任せるのが普通になったようだ。だから、時間通りにピッタリと終わる進行のスムーズさは見事なのだが、計算し尽くされた流れ作業のように思える。

 プロの司会者の声は美しいが、ベテラン車掌の車内アナウンスのように気持ちが伝わらない。食事はホテルの宴会場のような整然とした雰囲気の中でとるので、全体に口数が少なく、昔見たような酔っ払いオヤジもいないし、故人をしのぶ会話には泣き笑いがなく淡々としている。年寄りばかりになった田舎で昔のような葬儀をやるのは難しいとは言え、そういう葬儀で済ませるのが一般的になるのは、死のインパクトが低下し、徐々に軽く感じられるようになってきたからではないかと思う。

 喫煙所では、まだかくしゃくとしている年寄りが談笑していた。

 「火葬は、跡形もなくなるからイイよな。昔みたいに土葬されたんじゃ、ここに眠ってるって感じがするから嫌なんだよ」「焼かれて、手の平くらいになってしまってハイ終わりの方がいいよなあ」「○○さんみたいな、ポックリがベストやなあ」「ポックリ逝きたかったら、健康診断は行かんほうがエエで」「酒も飲めんようになったら、死んだほうがマシやしなあ」

 葬儀が始まる前なので、この2人が酔っていたわけではない。こんな軽い会話の様子からは、死に対する深刻さがまったく感じられなかった。

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