なぜ日露関係は重要なのか藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2013年03月11日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 3月5日から開かれている中国の全国人民代表大会(全人代)。中国共産党の習近平総書記が国家主席に就任し、新体制が正式に始まる。日本でも安倍政権が誕生し、双方とも新しい体制になったが、緊張がほぐれる様子はない。

 これで尖閣諸島周辺で偶発的な事故でも発生すれば、武力衝突にまで発展する危険性もはらんでいる。そうなれば日本経済も中国経済も大打撃を被ることは間違いない。ようやく円が安くなり、株価が高くなって、デフレから脱却できるかもしれないという希望が見えてきた日本経済は、たちまち奈落の底に落ちる。中国経済ももちろん無事ではない。日本からの資金が流入しなくなるだけではない。欧米諸国も一斉に中国のカントリーリスクを引き上げるだろう。逃げ足は日本企業よりも欧米企業の方が速い。

 その意味では、いくら尖閣周辺で中国の公船が挑発を続けようとも、本格的に事を構える可能性は小さいと思う。ただ習主席が軍部などの手綱をどこまで引き締められるかがよく分からないが、それでも日本としてはあくまでも自制的に対応するしかあるまい。間違っても領空侵犯してくる中国政府の航空機に「警告射撃」をしたりしないことだ。偶発的な事故を、軍を出動させる口実に使わせてはならないからだ(実際、中国大陸への日本軍の進出は、口実を場合によってはねつ造したのである)。

 中国に対する「抑止」は、日本のアジア経済における存在価値を高めるところからも生まれる。その第一は、何といってもロシアだ。すでに森元首相が地ならしをして、この4月末前後には安倍首相の訪ロが計画されている。ここで北方四島について「引き分け」の知恵が出ればいいが、実際にはそうもいくまい。何といっても日本側に四島一括返還を求める声が根強いからだ。

 しかし、この北方領土問題にこだわり続ける限り、ロシアとの連携はなかなか前に進まない。今、必要な知恵は、どうやって北方領土問題を「棚上げ」にして、日露平和条約を締結するかなのだと思う。

 それは今ほど、両者ともに平和条約を必要としたことはないと思えるからだ。まず日本。対中関係が難しくなったのは、もちろん尖閣国有化という政府の愚策がきっかけではあるが、本質的には中国がアジアにおいて帝国化するという底流が存在するからだ。アジアにおける中国を中心とする新しい秩序を目指すものと言ってもいい。日本がその新秩序に組み込まれることを嫌うならば、アジアにおいて日本を中心とする経済連携を強化するしか道はない。TPP(環太平洋経済連携協定)もその1つだし、ASEANとの連携強化もその1つだ。そしてもう1つの重要な環がロシアである。

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