“人道的な戦争”とは何なのか?リアリズムと防衛を学ぶ(2/3 ページ)

» 2013年03月11日 08時00分 公開
[暁,リアリズムと防衛を学ぶ]

現実を踏まえて理想を目指すということ

 国際人道法のアプローチは、このような世界の現実を踏まえたものです。

 戦争や武力紛争を全廃させることはいまだできていない。未来にわたってもそれは不可能かもしれない。その冷徹な現実認識に立って、戦乱の中でもできる限り人命が失われるのを防ぎたい。人間の尊厳が踏みにじられることを防ぎたい。それが国際人道法の精神である(小池政行著『国際人道法―戦争にもルールがある』8ページ)

 だったら、戦争をなくすよう努力するだけでは不十分です。それと同時に、不運にして戦争が起こってしまった場合のことも考えておかねばならないでしょう。

 理想として考えれば、戦いのルールを作ることに努力するより、戦いそのものをなくすことに努力すべきだと言われるだろう。しかし残念ながら人類の歴史は、戦いに終わりがないことを示している。理想は理想として、現実に今ある戦いの犠牲者を救う努力が必要であろう。この現実主義こそ、国際人道法の優れた特色である。(小池政行著『国際人道法―戦争にもルールがある』35ページ)

 このような進み方は、ほかの部分にも色濃く表れています。そこで国際人道法の設置を推進した赤十字国際委員会は、こう書かれています。

 軍事的観点から見ても国際人道法の尊重は合理的なものである。市民の大量殺戮、投降した軍隊の殺戮、捕虜の拷問などの行為が軍事的勝利につながったことはいまだかつて一度もない。…国際人道法上の考えを尊重することは、資源の合理的な利用にもとづいた、近代的戦略の一環なのである(小池政行著『国際人道法―戦争にもルールがある』90〜91ページ)

 このように軍事的にも合理的でなければ、国々はルールなど無視します。なぜなら戦争の勝敗には国家の興亡、国民の命がかかっているからです。殺すか殺されるかという時に「そんなことは非道だからダメだ」と言っても、聞き入れられるわけがありません。不戦条約が成立した後に第二次世界大戦が起こってしまったように、こと戦争となれば、邪魔なルールは無視されます。

 だから必要なのは、戦争の遂行を過度に邪魔せず、むしろある意味では促進すらしつつ、同時に人命を可能な限り救うルールです。「国際人道法を守ることが、国家戦略においても合理的だ」とみなされる状況を作ることです。

 いざとなれば暴力の衝突となり、生命の奪い合いとなる状況で、戦いのルールである国際人道法を軍人に守らせるためには、このルールを守ることが結果として戦いにも有利に作用すると軍人に納得させることが必要である。

 つまり、もし一般住民を攻撃の対象として戦いを行えば…国際社会から強い非難を受ける。結果として、戦闘には勝利しても国際的な戦略を含めた戦争には敗れることになる(小池政行著『国際人道法―戦争にもルールがある』34〜35ページ)

 このような状況であれば、諸外国は国際人道法を守っていない国を批判することで、外交上の優位を手に入れます。このように道徳を利用して国益を追求することをモラルポリティークといいます。内心では非道徳的な国も、自分の世間体を守ることで国益を保つため、外見には道徳的なように振る舞わざるをえません。

 このように現実の権力政治を否定するのではなく、それを踏まえた上で、その合理性に乗っかる形で少しでも人道を実現し、1人でも多くの人命を守ろうというのが国際人道法の考え方です。

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