犯人は「桜」を切ったのか? しなの鉄道伐採事件杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)

» 2013年03月08日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

「鉄道ファン」と「桜」が炎上させた

 この事件はネットで話題になるだけではなく、地元のテレビ放送や新聞でも採り上げられた。そこには「悪質な鉄道ファン」だけではなく、もうひとつ、日本人の感情に踏み込むキーワードがあった。

 「桜を切った」である。

 いちいち説明するまでもなく、日本人は桜が好きだ。だから桜を切られるというニュースは悲しい。私が子どものころに過ごした東急池上線沿線の、石川台駅と洗足池駅の間には、切り通しを覆うほどの見事な桜の枝があった。それが、切り通しをまたぐ道路橋の架け替えをきっかけに伐採された。あとから「桜の根が腐っていて危険だった」という噂も聞いたが、それが本当だとしても、見慣れている桜が切られるという話は辛かった。

公共工事で伐採される前の東急池上線の桜。鉄道用地の柵の外側から撮った写真

 海外の反日デモで、日本車がひっくり返されたり、日本製家電製品がハンマーで叩かれたり、国旗が燃やされたりする。その映像も悲しいが、もしそれが、日本から友好の証として送られた桜だったらどうだろう。日本国民はその国への制裁論で一気に団結するかも……。そのくらい桜は日本人にとって大切なものなのだ。

 しなの鉄道の伐採事件は「心ない鉄道ファン」と「桜を切った極悪人」の両方の要素が重なったためにニュース価値を持ち、多くの人々に強い衝撃を与えた気がする。

 しかし、ここで私は違う見方をしてみた。

 犯人は桜を切ったのだろうか。その木が「桜」と知って切ったのだろうか。

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