犯人は「桜」を切ったのか? しなの鉄道伐採事件杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)

» 2013年03月08日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

伐採で、鉄道ファン以外に誰が得をするというのか

 この騒ぎを垣間見て、私は心からしなの鉄道が気の毒だと思った。しなの鉄道は長野新幹線開業時に信越本線を引き受けた第三セクターだ。同社は並行在来線を引き受けた時から旧国鉄型車両を引き続き運用しており、それも鉄道ファンには魅力だった。会社としても鉄道ファンに好意的で、たびたび鉄道ファン向けにイベントを提供しているし、同社のオリジナルカラーだった「169系電車」を、昔を懐かしむファンのために旧国鉄の色に戻してくれた。その169系電車の引退を4月に控えて、各地から鉄道ファンが集まっている。それが今回の事件の背景である。

しなの鉄道は鉄道ファンと良好な関係を築いている会社だ

 しかし、同社はたびたび心ない鉄道ファンの被害に遭遇している。線路内立ち入りという危険行為や、上下の線路間の保安用ロープを取り外される被害もあった。車両をきれいに撮るために、車両の床下機器や車輪の手前に重なるものが邪魔だったかららしい。この件もあったからこそ、今回も、鉄道写真を撮りに来た人が、車体に被さる桜を伐採したと推測した。

 証拠はないが、私がしなの鉄道の職員だったら同じ感情を持ったはずだ。鉄道ファンとうまく付き合いたいと思い、公式サイトには撮影ガイドマップも掲載。マナー向上の呼びかけも行っていた。それだけに残念に思い、悲しかったことだろう。

 公認非公式アカウントが、確固たる証拠もなく鉄道ファンと決めつけた。これは確かに浅はかだったかもしれない。しかし、私に言わせれば、あれはやっぱり行き過ぎた鉄道ファンの仕業だと思う。ほかにあの桜を切って誰が得をするというのか。また、伐採した者への非難を「俺たち鉄道ファン(全部)が悪いってのか」と、なぜか自分を責められたと勘違いして騒いだ人たちもどうかしている。この騒ぎで「だから鉄道ファンは……」と嘲笑された対象は、伐採した犯人ではなく、しなの鉄道を非難した人々のほうだ。

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