無免許運転で4人を殺しても“過失”? 「法」と「常識」はなぜかけ離れているのか窪田順生の時事日想(2/3 ページ)

» 2013年03月05日 08時02分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

法曹界は「一般市民の常識からかけ離れている」

 未来のある少年に8年も奪うのはしのびない。少年院で5年ぐらい過ごせば、立派な社会人になって結婚して、家庭を築くこともできるじゃないか、と。

 被害者や遺族が聞いたら、「こいつらは人間の血が通っていないのか」と思われるかもしれないが、これまで取材でお会いした「人権派」なんて呼ばれる弁護士のみなさんは本気でそんなことをおっしゃる。我々からすれば法曹界は「一般市民の常識からかけ離れている」となるが、あちらからすると、世論やマスコミは「文句を言うなら法律の勉強をしてから言え」となる。

 この深い溝はなかなか埋められないが、ごくまれに法曹界から「常識」側にやってくる人もいる。例えば、日弁連の元副会長だった岡村勲さんもそんなひとりだ。

 彼は奥さんを殺された。証券会社の代理人をしていたとき、大損こいた男が逆恨みで家まで押し入って、対応をした奥さんを刺し殺したのだ。

 悲しみにくれる岡村さんが「極刑を」とマスコミに述べると、みんな耳を疑った。ご存じのように、日弁連というのは人権派弁護士の総本山みたいなもので、当然、死刑を「非人道的な刑罰」としてガンガン反対をしていた。そこの副会長が吊るし首にせよ、と言う。東京電力の前会長・勝俣恒久さんが「脱原発」を訴えるみたいなもんだ。

 さらに法曹界に激震が走った。岡村さんが裁判の傍聴席に、妻の遺影を持ち込んで、被告の正面に掲げたのである。今でこそ当たり前の光景だが、当時、こんな真似は日本全国どこの法廷でも許されていなかった。

 被告に不当な心理的圧力をかける、証言に影響が出るうんたらかんたら、と日弁連がイチャモンをつけて裁判所に認めるなと圧力をかけていたのだ。

 岡村さんの妻を殺した男は死刑にならず、判例に照らし合わせて無期懲役だったが、この一件で「被害者の人権」に少しずつスポットが当たり始める。光市母子殺害事件の被害女性の夫であり、被害女児の父である本村洋さんが、妻子の遺影を法廷に持ち込めるようになったのも、岡村さんが持ち込んだという先例があったからだ。

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