コラム
» 2013年03月04日 08時00分 UPDATE

藤田正美の時事日想:アベノミクスが抱える不安要素とは (1/2)

金融政策と財政政策を組み合わせて、日本経済を回復させようというアベノミクス。しかし、その行く先にはさまざまな懸念点がある。

[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 アベノミクスという言葉はもうすっかり定着して、このまま行けば、今年の流行語大賞は間違いないと言ってもよさそうだ。このまま行けば、というのは、円が対ドルで90円から100円の間にあり、株価が1万4000円から1万5000円を狙えるような感じになることだ。さらに物価が0%の水準を恒常的に超え、デフレ脱却が目に見えるようになれば、安倍首相の長期政権という芽も出てくる。

 できれば、このままデフレが過去のものとなり、そして緩やかなインフレに向かっていくのが一番いいと思う。1000兆円を超える国の借金や地方公共団体の借金は、増税だけでは返すどころか、増やさないようにすることすら難しい。多少のインフレになって、名目だけでもいいから税収が増えれば(要するに自然増収)、それだけ「傷口」を小さくすることが可能だ。

 加えて、日本企業の体力が回復するまで円安が続いてくれれば、さらにいいだろう。韓国がまさにウォン安で破竹の勢いだったように円安になれば日本企業も地力を発揮できるようになるだろう。

 とはいえ、そこに至る道は平坦でも真っ直ぐでもない。いちばん懸念されるのは「物価が上昇した時に、長期金利はいったいどうなるのか」ということである。通常なら、物価が上昇すれば、長期金利も上昇するしかない。なぜなら、例えば物価が2%上昇している時に、年利1%で国にカネを貸す人はそう多くはないはずだからである。

 もちろんことはそう単純ではない。日銀が国債を市中から買い入れれば(即ち現在の量的緩和がそのまま続いていれば)、それだけ長期金利を低く抑えることができるとするエコノミストもいる。その一方で、長期金利を抑えるために国債の買い入れを続ければ、それは財政ファイナンス(中央銀行が政府の財政を助けるために銀行券を増発すること)と受け止められ、その結果、円に対する信認が揺らぐかもしれない。そうなったら円安というより円暴落である。

 そうなったら、輸入品の価格上昇によって国内の物価はさらに押し上げられ、そして日本国債も競って売りに出される。1%にも満たない国債で運用している余裕はなくなるからだ。そして長期金利は急上昇する。もし長期金利が急上昇すれば、国債を保有している金融機関は巨額の評価損に悩まされることになる。1%の長期金利上昇だけで、地銀は3兆円の損が出ると言われ、その時には、貸し渋りや貸しはがしが常態化するだろう。

 ただ、これは急激に上昇した場合ということだ。あるエコノミストによれば、年に0.3〜0.4%ポイントぐらいの上昇であれば、金融機関は対応できるのだという。金利が上昇すれば保有している国債の評価額は下がるが、ポートフォリオを順次入れ替えれば、損失を吸収できるというのだ。

 ということは、とそのエコノミストは続けた。2%のインフレターゲットを達成するのに、4年とか5年かけて調整していく必要があるということだ。強気のリフレ派と呼ばれる人々は2年でインフレ率2%を達成できるとするが、それでは恐らく金融機関にかなりの損失が出るはずだ。それをどうするのか、という大きな問題が残っている。もしも金融機関の体力が大きく毀損されるようなことになれば、それこそ日本発の金融危機が起こることも否定できない。1990年代の金融危機は幸いなことに、日本国内でほぼ収まり、海外には波及しなかったが、今度はそうはいかないかもしれない。

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