ドット絵のレトロゲーキャラが活躍――映画『シュガーラッシュ』プロデューサーに聞くアカデミー長編アニメ部門ノミネート(1/3 ページ)

» 2013年02月25日 11時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 2月24日に行われたアカデミー賞授賞式で、長編アニメ部門にノミネートした『シュガーラッシュ』。米国では2012年11月2日に公開され、公開週の週末3日間の興行収入は4910万ドルと、ディズニー・アニメーション史上最高の記録を樹立した。

 『シュガーラッシュ』は架空のレトロゲームのキャラクターたちが集まり、あるレースゲームに挑むという物語。『パックマン』など実際に存在するゲームも多く登場するのだが、1980年代を彷彿とさせるドット絵のキャラクターに、ノスタルジアを感じた観客が多くいたようだ。日本でも1990年代の格闘ゲームを舞台にしたマンガ『ハイスコアガール』がヒットしているが、洋の東西で昔のゲームを取り上げた作品がヒットしているのは興味深いところである。

 3月23日の日本公開を前に来日したプロデューサーのクラーク・スペンサー氏に、『シュガーラッシュ』がどのようにして生まれたのか尋ねた。

クラーク・スペンサー氏

最初はノスタルジアの部分はあまり考えていなかった

――『シュガー・ラッシュ』が作られるまでの経緯を教えていただけますか。

クラーク ディズニーでは前々から「ビデオゲームの世界のアニメーション映画を作ったらいいんじゃないか」と思っていたのですが、なかなか良いストーリーが見つからなかったので、そのアイデアはずっと棚上げになってきました。

 そんな時、4年前に『ザ・シンプソンズ』のアニメーションシリーズをやっていたリッチ・ムーア監督がディズニーに入りました。そこでクリエイティブのトップであるジョン・ラセターが「ビデオゲームの世界のアニメーションを考えてみてくれないか」と、リッチ・ムーアに頼んだんです。

 リッチ・ムーアはゲーム好きだったので、非常に乗り気で企画を考えました。そして、同じことを30年間も続けていて、「自分の人生はそれ以外にあるんじゃないか」という悩みに突き当たっているキャラクターを考えたのです。

 非常にヒューマニズムにあふれた作品で世界中の人たちが感情移入できるだろう、そして「自分の人生は何なんだろう、もっと今以上の世界があるんじゃないだろうか」と同じように感じるだろうから、すごく良い映画になるだろうと思って、ジョン・ラセターにプレゼンしたのです。そうしたら、「それは良いアイデアだ」と、ジョン・ラセターからもゴーサインが出たのです。

――ゲームをテーマにするなら、最新のゲームを扱ってもいいと思うのですが、レトロゲームを選んだ理由は何ですか。

クラーク キャラクターが同じ仕事を30年間続けている設定なので、それなら一番初期の8ビットゲームの世界にしないといけないということになりました。そして、それならゲームセンターに舞台を作らないといけないだろうと思ったのです。

 ただ、やはりレトロ過ぎるのではないかと心配して、Xboxのような家庭用ゲームを舞台にするのがいいのではないかという議論も何カ月もしました。その中で、アニメーションは非常に視覚的なメディアなので、Xboxだと複雑で、どういう仕組みなのか想像しにくくなってしまう。一方、ゲームセンターだと、みんな行って遊んだことがあるので、観客からも受け入れられやすいと判断したのです。

 また、観客のみなさんからの反応を見ていて、自分が昔遊んだことがあるというノスタルジアがこの映画の魅力の1つになっていると思いました。今回の作品はゲームセンターを舞台にしましたが、もし次回作があるなら最新のゲームの世界を舞台にして、『シュガー・ラッシュ』のキャラクターがその世界でどういう風に活躍するかという展開ができると思います。

――レトロゲーム特有のドット絵の表現などには、とてもノスタルジアを誘われました。そのあたりは、どのくらい意図していたのでしょうか。

クラーク 実は最初はノスタルジアの部分はあまり考えていなかったんです。初めに少し映像を作って外部に見せてみたところ、「子ども時代にゲームで遊んだ思い出がよみがえってきた」という反応がありました。「良い映画を作りたい」ということだけを考えていたのですが、その時初めてノスタルジアというところで、みんなが感動できる映画だと分かったのです。棚からぼたもちというか“エクストラボーナス”をいただいたと思っています。

 また、いろいろと面白ネタを仕込んでいるのですが、例えば『フィックス・イット・フェリックス』(作中に登場するレトロゲーム)のハイスコア表にはウォルト・ディズニーの誕生日が隠れています。

――『フィックス・イット・フェリックス』の設定はどのように決まっていったのですか。

クラーク 最初に1980年代に8ビットゲームを作った会社を取材しました。そして、特に『ドンキーコング』の世界を参考にしました。

 キャラクターについてはまず、ラルフという悪役を登場させようと思っていました。なので、「悪役がいるということはヒーローが必要だよね」というところから考えが始まったのです。そこで最初のアイデアとして、ラルフがある場所に住んでいたら、強制立ち退きさせられて、そこにビルが建ってしまった、なのでラルフが怒ってビルを壊そうとする、一方でビルを直そうとするヒーローが出てくるという設定を考えたのです。

 8ビットゲームというのはよく考えると、「どうしてこういう世界なの?」というような、説得力はあっても、ちょっと風変わりな要素をミックスしたものが多いですよね。そういった意味で、『フィックス・イット・フェリックス』の世界は、8ビットゲームの要素をうまく体現できているなと思いました。

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