TPP参加の意義はどこにあるのか?藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2013年02月25日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 モスクワのG20で「円安誘導」を非難されずに乗り切った余勢があったのかどうか、安倍首相は懸案だった日米首脳会談もうまくこなしたように見える。最大の難関はTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉参加問題で米国側から「言質」を取ることだった。そしてオバマ大統領との共同声明で「交渉参加に際し、一方的にすべての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではない」と書き込むことに成功した。

 これで党内の慎重派を説得できれば、来週28日に予定される所信表明演説に盛り込まれるかもしれない。民主党政権の時と比べれば、圧倒的なスピード感である。民主党の野田前首相もTPP参加を打ち出したが、党内を説得できる材料も、米国から妥協を引き出せるあても何もなかった。政権復帰を狙った安倍首相は、たっぷり考える時間があったということだろうが、シナリオを描いた人たちが周辺にいるということだ。

 TPP参加は日本にとって意義が大きい。経済的には、日本が他の国と自由貿易という点で後れを取らないところにある。日本の産業が円高を理由に海外に進出しているため、日本の空洞化が懸念されている。空洞化すれば雇用が減る。雇用が減れば、GDP(国内総生産)の最も大きな割合を占める消費が減る。もちろんその前に企業の投資も減っているから、日本経済は縮小せざるをえない。

 そこを補う1つの候補が、海外企業の日本への直接投資だ。しかし日本への直接投資の比率は今まで「誘致」の掛け声だけはあったものの、欧米に比べて極端に低い。もしTPPに取り残されれば、日本が「投資候補地」として浮上するチャンスがほとんどなくなるところだっただけに、安倍経済外交は大きな成果を得たと言えるだろう。

 これを受けて支持率が上昇しているのは興味深い。TPPに両手を挙げて賛成する人は、日経の世論調査でも半分弱しかいないが、反対している人はそれより少なく3分の1だ。世界が動いている中で、日本だけが農業を守るという掛け声でTPPに背を向けていいのか。そんな意識が浸透しているのかもしれない。

 もちろんTPPの意義はそれだけではない。この多国間経済連携の最大のポイントは、中国が入っていないことだ。日本が大陸ではなく、むしろ太平洋の側を向いているということをはっきりと示すことになるからである。その意味では、今後の外交の焦点はASEAN(東南アジア諸国連合)とロシアだ。

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