「あなたの挫折経験を教えてください」と人事が質問する理由サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」(2/3 ページ)

» 2013年02月18日 06時20分 公開
[サカタカツミ,Business Media 誠]

 「エントリーシート」と称して、就活生に従来の履歴書とは違うシートを提出させる企業は少なくありません。その形式は様々で、一概にこれというものはないのですが、その中に多く含まれている代表的な質問に「あなたが今まで一番頑張って来たことを教えてください」というものがあります。それと同じくらい多いのが「あなたの今までで一番の挫折経験は何ですか」という質問なのです。読者の中でも勘の鋭い方は、そこに「採用担当者たちが素敵だと思える記述」をするために、就活生はネット上で答えを探しているのだなとピンときた人もいるでしょう。しかし、それは「半分正解」にすぎません。事態はもっと、興味深いのです。

「挫折経験とはどういうものですか?」と就活生から質問される

 企業がエントリーシートなどで挫折経験を問うときに、同時にセットになっている質問があります。それは「その挫折をどのように乗り越えましたか」というもの。どんなことを挫折と考え、そのときにどういう行動をとることでそれを乗り越えたのか。シンプルですが、意外と分かりやすい質問です。

 しかし、就活生の中にはそれに戸惑ってしまう人もいます。まず「挫折」の意味が分からない。当然、辞書的な意味は知っているのです。でも自分にはそういう経験がないことに戸惑い、何を書いていいのか分からなくなるというのです。実際、私のブログに流入してくる検索ワードにも「挫折 経験 ない」というものがありました。

 仕事柄、就活生からたくさんの質問を受けますが、その中にも「挫折した経験がありません」とか「挫折と言えば受験の失敗くらいですが、それでいいのでしようか」という問いかけが、多く見受けられます。ここまで読んで「何を言っているのだ、イマドキの就活生は挫折経験すらないのか」憤慨する読者の方もいるでしょう。しかし、考えてみてください。大学3年生の時点で、特筆すべき挫折経験を持っていて、しかも、それを人に語るレベルの努力をして乗り越えたと、胸を張って言える人がどのくらいいるのでしょうか。それほど多くないと思いますよ。

 せいぜい、失恋してご飯ものどを通らなかったとか、計画していたイベントが実行できなくて凹んだとか、ずっと打ち込んで来た部活がケガで続けられなくなったとか、そういう感じになるでしょう。最後の例は十分に挫折だと思いますが、挫折を乗り越えたという実感を持ちにくいケースです。そのため、エントリーシートには書けなくなってしまう。いろいろと考えていると、企業は「どんな意図で」挫折について質問しているのか、どういう答えを書けば企業は喜んでくれるのかと、就活生は完全に迷子になってしまっているのが、現状と言えるでしょう。

企業は挫折経験から、ある能力を類推しているつもり

 なぜ企業は、就活生の挫折経験を問うのか。その理由はいろいろとあるのですが、大きな流れとしては「打たれ弱い新入社員が増えた」と言われる時期と重なります。元気でハキハキしていて素直な新入社員。成績も優秀だし、言われたこともちゃんとこなす。一見すると「素晴らしい」の言葉以外無いように思えますが、いざ失敗したとなったら落ち込んでしまって、先に進めないというタイプが職場に増えていると、喧伝された時期があったのです。

 そこで登場したのが「挫折経験」です。困難を乗り越えた経験があるなら、次の困難が来てもきっと乗り越えるはず、その術を知っているし、なにより困難を乗り越えたときの気持ち良さが身にしみていることは大きい、と採用担当者たちは考えたのです。そして、エントリーシートなどに記載させたと。

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