国内観光ビジネスが“脱中国”するにはどうしたらいい?窪田順生の時事日想(2/2 ページ)

» 2013年02月12日 08時00分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]
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爆発的に増えているタイからの観光客

 中国の富裕層がタイでじゃんじゃんカネを落とす。それでタイの経済成長もじゃんじゃん活性化されれば、タイの富裕層や中間層が海外旅行をする。そこで日本に来ていただいて、中国人並みにカネを落としてもらう。こういうカネの流れができれば、中国人観光客が減ろうと、その分をタイ人観光客で十分補填できるというわけだ。

 そんな簡単にいくかよと思うかもしれないが、実はこの近年、タイの訪日観光客が爆発的に増えている。2012年は26万800人と過去最高だった2011年に比べて79.9%増。国別に数をみるとオーストラリアを抜いて6位。ちなみに、中国は3位(146万人)だった。

 しかも、消費力もいい。2010年度のタイ人の「日本国内における旅行中支出」は11万7963円。中国人の16万4358円と比べるとたしかに見劣りをするが、香港人9万5381円、韓国人6万3000円に比べるとかなり多い。

 中国人観光客の代名詞であるショッピングもなかなかのものだ。中国人は旅費のなかで「買物」が46.7%と突出しているが、タイも35%と第2位。タイ人観光客は、「爆買」で国内産業を潤わせた中国人観光客にとって代わる「ポスト中国人観光客」に十分なりうる存在ということだ。

 しかし、タイ人観光客を呼び込むべきだと主張する理由はそのような経済的な面だけではなく「リスクが少ない」というところが大きい。

 ご存じの方も多いと思うが、タイはアジアを代表する親日国家だ。

 東日本大震災の3日後、どの国よりも早く総額2億バーツ(約5億4000万円)の支援を即決したのは有名な話だが、それだけではない。タイ王室もいの一番に被災地に「毛布」を送った。バーツで送るよりもすぐに被災地の人に届くという判断からだ。

 しばらくして電力不足が問題になると、タイ発電公社はガスタービン発電機2基を貸し出すと言い出した。日本のマスコミは「はあ、そうですか」ぐらいのベタ記事だったが、実はこの時、タイ南部では洪水が発生して多くの人が亡くなっていた。ここまで日本に尽くしてくれる理由を、タイ政府はこんな風に説明した。

 「日本は過去50年にわたりタイの開発を支援した。今回は日本がこれまでタイに示してくれた友情と連帯に応える機会である」

 6兆円ともいわれる多額の支援をしてきても、射撃用レーダーを向ける国の人たちに、媚びへつらって来て頂いてなんだかんだとトラブルになるよりも、羽振りのいい親日国に来てもらった方が、観光産業に携わる人々だってもてなし甲斐がある。

 震災後、中国人観光客の招致策として、外務省は岩手、宮城、福島を訪れる中国人富裕層相手に、3年間であれば何度も訪日できる「東北3県限定観光マルチビザ」を支給すると言い出したが、使い勝手が悪いとかなんだと不人気で、あまり利用されていないという。

 そんなニュースが流れた頃、タイでは福島産の桃が完売した。放射線検査を通っても福島産はお断りだという国がほとんどのなか、260バーツ(660円)とあちらの物価にするとかなり高額にもかかわらず、あっという間に完売した。

 やはり優遇すべき相手を間違えていないか。

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