お客さんの“コントロール感”を奪ってはダメ

» 2013年02月12日 08時00分 公開
[松尾順,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:松尾順(まつお・じゅん)

早稲田大学商学部卒業、旅行会社の営業(添乗員兼)に始まり、リサーチ会社、シンクタンク、広告会社、ネットベンチャー、システム開発会社などを経験。2001年、(有)シャープマインド設立。現在、「マインドリーディング」というコンセプトの元、マーケティングと心理学の融合に取り組んでいる。また、熊本大学大学院(修士課程)にて、「インストラクショナルデザイン」を研究中。


 販売や交渉などにおいて、こちらの要求(商品を購入してほしい、当方の条件を認めてほしいなど)を相手に“心地よく”受け入れてもらいたいなら、言い換えると上手に説得したいなら、ぜひとも覚えておくべき点が1つあります。

 それは、相手の「コントロール感」を奪ってはいけないということです。

 コントロール感とは、端的に言うと「自分の判断で物事を決めたい」という欲求のこと。人は誰しも、多かれ少なかれこの「コントロール感」を持っています。従って、相手に選択の余地を与えなかったり、強制的な物言いをしてしまうと、「心理的な抵抗(リアクタンス)」が生まれ、要求が受け入れられなくなります。

 さて、この「相手のコントロール感を奪ってはいけない」という「説得における基本中の基本原則」は、サービスの現場においても重要です。

 大阪ガス行動観察研究所が、某レストランチェーンのホールでの、接客スタッフの様子を行動観察し、「優秀店」と「標準店(平均的な店)」との違いを確認したところ、さまざまな違いが発見されたのですが、その中には、「コントロール感」に関する違いもあったのです。

 お客さんのテーブルに空になったお皿が残っている時、「お下げしてもよろしいでしょうか?」と聞き、それに対してお客さんがうなずくなど、ちゃんと相手の「許可」が得られたことを確認してから下げるのが優秀店です。

 ところが、標準店のホール係の場合、「お下げしてもよろしいでしょうか?」と言い終わらないうちに、皿に手がかかっていることがあるのだそうです。つまり、実際には客の許可を得る前に強制的に皿を下げてしまう。

 どうせ空の皿ですから、どちらにせよ下げられても問題はないはず。それでも、自分が許可を与える前に勝手に下げられてしまうと、心がわさわさしてしまうわけです。というのも、「コントロール感」を奪われたからなんですね。

 上記の例は、たいした違いではないと感じられるかもしれません。しかし、こうした細かい気配りの有無が、愛され、リピートされる店になるかどうかの分かれ目になっているのです。

 あなたも、さまざまな状況における、お客さんとのコミュニケーションにおいて、相手の「コントロール感」をうっかり奪ってしまっていないか、検証してみてはいかがでしょうか?

 それにしても、ビールがまだ一口分くらい残ってるのに、新しいビールと交換に黙って持っていってしまう店ありますよね。そういう時、「まだ残ってます」などとは、「セコイ!」と思われるようで言いにくいので二重に不愉快です。そんなお店には私は二度と行きません(笑)(松尾順)

※参考文献『ビジネスマンのための「行動観察」入門』 (松波晴人著、講談社現代新書)

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