「あれから2年」の情報が氾濫する前に、この本を読んでほしい相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2013年02月07日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『震える牛』(小学館)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『鋼の綻び』(徳間書店)、『血の轍』(幻冬舎)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


津波の墓標』(著・石井光太氏、徳間書店)

 カレンダーが2013年2月となった。私の旧知のメディア関係者の多くが、3月11日を前に「あれから2年」の記事や特集向けの取材、企画の立案に忙しく動き回っている。言うまでもなく、あれから2年とは2011年3月に発生した東日本大震災を指す。

 当欄で何度も触れてきたが、震災に関する報道は激減し、中央のメディアは「あれから2年」という杓子定規な切り口でしか災禍を切り取らない。在京紙やキー局の報道姿勢とともに、被災地の外にいる人の大半は、あの日以降起こったことへの関心が薄れている。こうしたタイミングで必読の書を紹介する。タイトルは『津波の墓標』(徳間書店)。著者は『遺体』(新潮社)で震災の「死」を直視し、読者を驚嘆させたノンフィクション作家の石井光太氏だ。

読者に突き刺さる「筆致」

 これほどまでに惨たらしい光景を目にするのは初めてだった。たとえば紛争地に赴いても人間の行う破壊には限界があるし、様々なところで人間の情を垣間見ることができる。建物は焼かれても墓地は無事に残っていたり、大人は殺されても女子供は腕を切られるだけで済んだりするのだ。だが、津波による破壊は一切の感情を介さない。海沿いにあるものを何もかも押し倒し、引き抜き、叩き付ける。津波が襲った後には、路傍の花さえも引きちぎられ、ヘドロをあびせられる。その徹底した破壊の跡に底知れぬ恐怖を覚えた。

 『津波の墓標』の冒頭、被災地を最初に訪れた際の著者の率直な気持ちがこのように綴られている。 

 震災発生から約3週間後に宮城県石巻市を訪れた際、私も全く同じ感触を得た。事前に戦争取材経験が豊富なベテラン記者から「一切の容赦がない」と聞かされていたからだ。クルマで同市に入り、路肩に放置された潰れた乗用車を見たとき、全身が泡立った感覚はいまだに忘れることができない。

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