テキサス州オースティンでホール・フーズ・マーケットが設立されて1年目のこと、歴史に残る大洪水が町を襲いました。13人の尊い人命が失われ、オースティン市全体の被害総額は3500万ドルにものぼりました(現在の価値に換算すると約1億ドル)。
ホール・フーズ・マーケットの店舗も、床上2.5メートルの浸水という甚大な被害を被りました。店内の機器は全壊し、商品もすべて台無しになりました。貯蓄も、保険も持たない若いビジネスにとっては、これは事実上の倒産を意味しました。
惨状を目の前に愕然とするマッキーと従業員のもとに、日頃から店を贔屓(ひいき)にしていた顧客や隣人が集まってきました。そして、バケツやモップを片手に腕まくりをして、マッキーたちにこう呼びかけたのです。「くよくよしていないで、やるべきことをやろう。この店を復活させるんだ」
それから数週間にわたり、たくさんの顧客が店を訪れ、店舗の復興に力を貸してくれました。従業員たちも、大好きな仕事場を取り戻したい一心で無償で働きました。取引先の中には、ツケで商品を供給してくれるところも出てきました。感謝の気持ちで一杯になりつつも、驚きを隠せず、ある日マッキーは掃除を手伝ってくれた顧客の1人にこう尋ねました。
「何の見返りがあるわけでもないのに、なぜこんなことまでしてくれるんですか」
すると、その顧客はこう答えたといいます。
「ホール・フーズは私の生活の大切な一部だからですよ。ホール・フーズがない生活なんて考えられない。ホール・フーズがない町になんて住みたくはない」
こんなにまでホール・フーズを愛してくださるお客さんのために、何としてでもビジネスを再開して、あらゆる力と心を尽くしてお客さんの暮らしを良くする商売をしなくてはならない……。この言葉を聞いて、マッキーと従業員たちは志を新たにしたといいます。
繰り返しになりますが、「その人、国、企業、あるいは目的を熱烈に愛しているからこそ、そのためだったら一肌脱いでしまうこと」、それこそが「ロイヤルティ」であると私は思うのです。災害や人的ミスやその他の理由で会社が窮地に立たされた時、援護に駆けつけてくれるお客さんがどれだけいるでしょうか。非難の矢面に立たされた時、弁護にまわってくれるお客さんはいるでしょうか。それこそが、ロイヤルティの真の指標であるべきであり、ロイヤルティはお金では買えないのだ、ということを改めて実感させられたエピソードでした。(石塚しのぶ)
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