事実上の“足あと”復活――mixiの考える「ユーザーファースト」とは何かなぜこのタイミングで?(4/5 ページ)

» 2013年02月01日 20時00分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]

ユーザーウィーク3日目〜「足あと」はなぜ廃止されたのか

 ユーザーファーストウィーク3日目、11月9日は足あと/訪問者機能にフォーカスした内容となっていた。

 2011年に足あと機能を廃止した経緯については「短期集中連載・mixiはどこへ行く?:第3回 足あと廃止は改悪なのか、進歩なのか――ユーザーコミュニケーションの重要性」で触れた通りだが、以下改めて、足あとのメリット、デメリットについて、ユーザーファーストウィーク3日目で行われたプレゼンテーションの内容に沿ってまとめていこう。

 足あとはmixi初期からある機能だ。日記やプロフィールページなど、自分以外の人のページに行くと、誰が何時何分にやってきたかログが残っており確認できるという機能だった。リアルタイムで確認できるため、自分が書いた日記がどれくらい読まれたか、誰が見に来てくれたかといったフィードバックが得られる。また足あとをきっかけに、友人の友人、同じコミュニティの人といった人と新たに友だちになる……といったメリットがあった。

足あとのメリットとデメリット

 半面、足あとには「重さ」という課題があった。日記を読んだりプロフィールを見たりしただけで足あとが残ると思うと「気軽に見に行けない」「気があると思われたら困る」「見に行ったらコメントしないといけない」といったプレッシャーがかかるので、足あとはイヤだ、という声もまた多かった。

 ミクシィが足あとの課題と考えていた点はほかにもある。1つは、足あとスパムの問題だ。いわゆる「業者」がユーザーページを訪れて足あとが付いているのに気がつけば、見知らぬ名前を見たユーザーはそれが誰だか確かめに行く。見にいけば業者のページに足あとがつくことになり、これが不快、という意見が多かった。実際、足あとスパムは、mixiを退会する理由としても挙げられることが多かったという。

足あとスパムの通報数
mixi退会理由として挙げられることが多いのもまた足あとだった

 次に、新しく追加された機能では足あとを付けずにコミュニケーションできるようになっていたことだ。特に「つぶやき(ボイス)」は今やmixiで最も投稿数が多いメイン機能となっているが、従来の足あとではつぶやきを見たりコメントを付けたりしても足あとが付かない。このあたりのサービスの整合性を取らなくてはいけないという意識もあった。

 もう1つの理由として挙げていたのが「足あとを削除するユーザーは増えているのに、足あとを利用するユーザーは減っていた」というデータだ。確かに2010年2月と2011年2月のデータを比較すると、足あと利用ユーザーが57%から44%に減っているのに対し、足あとを削除するユーザーは43%から61%に増えている。

2010年2月と2011年2月で比較すると、足あとページを利用するユーザーが減り、足あとを削除するユーザーが増えている

 なおユーザーからは「足あとを廃止したのはシステム負荷の問題のためか?」という質問が出ていたが、それについて笠原社長は「足あと機能を廃止したのは、サーバー負荷が理由ではない」と回答している。

足あと廃止がmixiの「過疎化」のきっかけになった

 こういった課題を認識していたミクシィは、2011年6月に足あと機能を廃止、ユーザーのページを訪れた人を1週間後に「訪問者」としてまとめて表示するという方針に切り替えた(間隔はその後3日、1日と短縮されている)。運営側では(1)リアルタイム表示をやめて訪問者の表示の周期を延ばし、クリックするとすぐに足あとが付くという気分的な重さを解消する(2)スパムは表示せず、表示する訪問者については関係性を明示する(友達の友達、同級生など)、(3)足あとの利用者数が減っていたので、訪問者の更新時には通知をして見てもらえるようにする、の3点を意識していたという。

 しかしその結果は、mixiの運営スタッフの予想から大きく外れたものだった。誤算の1つ目は、足あとをやめたことに反対するユーザーが非常に多かったことだ。「mixi足あと機能改悪反対!」と名付けられたコミュニティには26万人ものユーザーが参加し、1万7000人もの署名が集まった。筆者の周りでも、足あと廃止をきっかけにmixiを退会した人は多い。

足あと廃止に反対するコミュニティ。26万人ものユーザーが集まった

 もう一つの大きな影響は、ユーザーの利用がじわじわと停滞していったことだ。足あとは「自分が書いた日記が読まれているかどうか」を確認するために使われることが多かった。mixiだけでなく一般的に、誰かの投稿に対して「いいね!」を付けたりコメントを書き込んだりするのはごく一部で、ほとんどの人達は読んだだけでリアクションを示さないのが普通である。自分の投稿が読まれたかどうかを確認するだけなら、「いいね!」よりも足あとのほうが確実だ。足あと廃止によって、1人あたりの閲覧ページ数が増えるという変化もあった半面、自分の投稿への反応がすぐに分からないために投稿するモチベーションが減っていった人は多く、日記などの投稿数も減っていったという。

 SNSのコンテンツとは、基本的に「友達や自分が投稿したもの」だ。日記の数が減り、ボイスの中身はTwitterから自動転送したものだけとなり……という形で“過疎化”が進んだ結果、「最近mixiは盛り上がっていない気がする」と感じたり「気がつけばmixiを使わなくなった」という人は少なからずいるのではないか。

「足あと」廃止で、友人追加リクエストが60%減った

 SNSの面白さ、楽しさとしてはもう一つ「新しい友達と知り合う、つながりができる」というものがある。ユーザーファーストウィークで示された資料の中でも、「足あとリクエスト」についての数字は非常に象徴的だった。足あとを廃止して訪問者に切り替えた直後、足あと(訪問者)のページを見て新しく友人追加をする人の数は60%減ったという。筆者自身も足あと機能の廃止以降、mixiで新しい友人が増えることが著しく減った印象があったが、データで実証された形だ。

足あと機能廃止直後、足あと(訪問者)ページからの友人追加リクエストの数は60%減った

 足あと機能を廃止したとき、mixiとしては「閲覧しやすくなる→投稿に対してイイネ!やコメントが増える→投稿へのモチベーションが上がる→投稿数やフィード数が増える」という形の正のスパイラルを狙っていたという。しかし実際に起こったのは「投稿への反応がすぐに分からない/人がいない感→投稿モチベーションの低下→投稿数減少、フィード数減少」という負のスパイラルだった。

 これらの状況についてmixi側は「(足あとを廃止し)閲覧しやすくなることからの良いスパイラルを期待していたが、実際には悪循環になってしまった。閲覧者側の声に引きずられ過ぎてしまい、投稿者にとってのメリットを大きく損なってしまったのではないか」と振り返っている。

足あとを訪問者に変えることで、左のようなスパイラルを期待していたが、実際には右のような負のスパイラルになってしまっていた

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