「転職は当たり前の時代」は本当か――転職についてシリアスに考えてみるサカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」(2/3 ページ)

» 2013年01月28日 08時00分 公開
[サカタカツミ,Business Media 誠]

40年以上前から「これから雇用は流動化する」と言われていた

 まずよく耳にするのが「昔は終身雇用が当たり前だったので、転職をする人はいなかった」という話。まことしやかにいわれ続けている台詞ですが、本当にそうなのでしょうか。手元にある40年以上前の週刊誌をパラパラと眺めていると、昭和29年に就職活動した人が会社に縛られて身動きできないことを憂い、これから雇用は流動化するので、転職エージェントに登録すべきだと諭されるルポが掲載されています。

 昭和29年といえば64年前ですから、当時大学生からの入社だとして現在86歳。そのくらいの年齢の人が現役だった頃から「転職は視野に入れるべきだ」と言われ始めていたとしたら(実際はもっと以前からと考えるべきでしょう)、「昔は転職など考える人はいなかった」という言葉には大した説得力はありません。ただ、こういう人が出現しはじめたという記事になるということは、この時代にすでに一般的になっていたとは行かないまでも(前回の私の記事を参照してください)兆しとしてはあったと考えても良さそうです。

 まったくの余談になりますが、この40年以上の前のルポには「終身雇用、年功序列という保障制度が日本企業の恩恵だったが、これからは自由化の時代でそういうことはなくなる」と書かれています。これにしても、ここ最近いわれ始めたと思いがちの台詞ですが、実はそんなことはない、ということがわかりますね。さらに、資本の自由化とともに、激烈な国際競争になるので雇用の合理化は必須なのだとも書かれていて「ん? これって一昨年あたりに発売された週刊誌?」と思えるほどなのが面白いところです。仕事柄、こういう記述のある雑誌や書籍をたくさん集めているので、折に触れて紹介していきましょう。ということで、話を転職に戻します。

転職は「当たり前と考えるべき」とは考えなくていい

 転職市場を俯瞰していると、きわめて単純ながら興味深い事象に気がつきます。それは「恒常的に人は足りない」という事実です。

 多くの企業が、いつも人を募集しています。例えば、電車の中吊りなどで「求人フェア」と称するイベントの広告を目にしたことがある、という人も少なくないでしょう。特に首都圏では頻繁にこの手のイベントが開催されています。「どうせ人が定着しないブラック企業ばかりだろう?」という声が聞こえてきそうですが、その企業名を見ていると一概にそうともいえないところがズラリと並んでいます(当然、客寄せとしての社名であることを考慮に入れる必要はありますが)。少なくとも、新卒だったらそうそう簡単には入社できそうにない企業が、転職市場と呼ばれる場所では人を探しているのです。

 しかし、恒常的に人が足りないにもかかわらず「就職できない」という人が世の中にはたくさんいる、という事実も厳然として存在します。「そんな奴はえり好みをしているからだろう?」というお叱りが飛びそうですが、総務省が随時発表している「労働力調査」(参照リンク)の中にある「仕事につけない理由別完全失業者数」を見ていると、完全失業者280万人のうち「条件にこだわらないが仕事がない」という人が29万人、つまり約1割もいます(平成24年7月〜9月期平均)。興味のある方はデータを参照すると驚くのではないでしょうか。この時期に限っては働き盛りである「25歳から34歳」というゾーンが、条件にこだわらなくても仕事がないピークになっていて「仕事がないのは年齢のせいだろう?」という常識も覆す結果になっています。

「仕事につけない理由別完全失業者数」(出典:総務省)

 片方では仕事が欲しい、片方では人が欲しい、マッチングしそうなものですが、実際はそう簡単にはいかないのです。そこからも「誰もが就職できるわけではない」という、当たり前の図式が見えてきます。

 馬鹿馬鹿しい話を書いていると思われるかもしれませんが、この“当たり前のこと”を認識できていない人が少なくないのです。「こんな時代だからいつかは転職するということを視野に入れてキャリア形成しなければならない」フレーズは、常識のようなものになりかけていますが、少なくとも疑ってかかるべきです。

 どんな時代でも、今いる場所で最善を尽くし、組織に貢献することでできる限り長くその場所で勤められるよう、意識すべきなのです。転職が当たり前の時代になっている、という台詞に踊らされて、転職を前提としたキャリアを考える必要はないのです。

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