松井秀喜がバットを置いたワケ臼北信行のスポーツ裏ネタ通信(2/3 ページ)

» 2013年01月24日 08時00分 公開
[臼北信行,Business Media 誠]

発想の転換でヒザの傷みに別れを告げた

 A氏はヒザの痛みを誘発させる原因が「筋肉の重み」にあると考え、器具を使った筋力トレーニングを極力控えるように助言。その結果、それまで格闘家と見まがうようなゴツゴツした体型だった松井氏の身体はスプリンター系のシャープなボディへと変化した。これにより両ひざにのしかかっていた負担が大きく軽減。長年の懸念材料だった「爆弾」は除去されたのだ。

「2009年のレギュラーシーズン中も8月上旬ぐらいまで左ひざが内視鏡手術を施したにも関わらず悲鳴をあげ続け、患部から水を抜く治療をたびたび行っていたが、A氏のアドバイスを受けるようになると、それもすぐに必要がなくなった。ヒザの痛みの心配が消えた松井氏は水を得た魚のように復活。レギュラーシーズン終盤、そしてポストシーズンでの豪打爆発へとつながったのです」(メジャー関係者)

 とはいえ、その好調も長くは続かなかった。松井氏は2009年のオフ、ヤンキースからFAとなってエンゼルスへ移籍。マイク・ソーシア監督から直々に「中心選手としてチームを引っ張って欲しい」と強く要請されての入団となったが、新天地での2010年レギュラーシーズン成績は打率2割4分4厘、14本塁打、55打点と完全な期待はずれに終わった。ヒザの痛みはまったくなく、コンディションは終始万全だったはず。しかし本人の気付かないところで身体には、ある異変が生じていたのだ。

ヘイ、ヒデキのバットスイングでは打球は飛ばないぞ

 2010年5月20日、エンゼルスとの試合を終えたホワイトソックスのオジー・ギーエン監督(現マーリンズ)が取材に来ていた複数の日本人記者たちの姿を見つけると松井氏について、こんなことを口にした。「ヘイ、ヒデキのバットスイングのスピードは随分とスローになったな。あんなスイングでは相手投手の球種を見極められない。それにたとえバットでボールを的確にとらえたとしても、打球は全然飛ばないぞ」。

 過去数年の長きに渡ってゴジラと繰り返し対峙して来た人物の言葉だけに説得力は十分。ギーエン監督だけではない。ツインズのロン・ガーデンハイアー監督も2011年のレギュラーシーズン中、アスレチックスでプレーしていた松井氏について「スイングを見ていて対戦打者としての『怖さ』がほとんど感じられない。厳しい言葉で言えば彼のスイングスピードは『ベリー・スロー』だ」と指摘。こうした敵将たちのコメントを総合すれば、やはり2010年のエンゼルス時代以降、松井氏のバットスイングのスピードは遅くなったと言わざるを得ないだろう。

 メジャーリーグでは「フォーシーム」と呼ばれる順回転の直球を投じる投手が少なく、打者の手元で微妙に変化するボールを投げる投手が圧倒的に多い。大きな手のひらと長い指を駆使して、日本人には到底真似のできない「魔球」のような変化球を投げる投手もいる。

 こうした環境に松井氏が対応できたのは他の超一流メジャーリーガーたちと同様、驚異的なスイングスピードを誇っていたからこそ。スイングが早ければその分だけ時間をかけて相手の投じた球種を見極めることが可能となり、それにより確実に自分のポイントで打撃を行うことができる。ところが近年、松井氏はその大事な“武器”を失ってしまっていたのだ。

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