コラム
» 2013年01月18日 08時02分 UPDATE

杉山淳一の時事日想:広島電鉄でクーデターが起きた、なぜ (1/4)

広島電鉄本社で取締役会が開催され、社長不在のまま「社長を平取へ降格、専務取締役の社長昇進」が決議された。日本最大の路面電車路線網を持ち、昨年は開業100周年を迎えた広島電鉄のクーデター。その背景には何があったのか。

[杉山淳一,Business Media 誠]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。


 2013年1月8日、広島電鉄社長の越智秀信(おち ・ひでのぶ)氏は、広島市中区の江波車庫で新型車両の搬入を見つめていた。その時、2キロメートルほど離れた広島電鉄本社で取締役会が開催され、社長不在のまま「社長を平取へ降格、専務取締役の社長昇進」が決議された。広島電鉄の社長交代劇は“クーデター人事”ともいえる。

 「社長不在の社長交代決議」という事件は異例だ。しかし、この取締役会の開催は前社長も了承していた。社長欠席時の電撃動議ではない。地元紙の中国新聞によると、この決議の4日前、10時から始まった常務取締役との新年顔合わせで、当時専務取締役だった椋田昌夫(むくだ・まさお)氏が社長の解職を提案。越智社長は自らを解任する取締役開催を了承している。

 そして8日。越智氏は自分を解任する取締役会に出席せず、自分が社長時代に決裁した新型車両の搬入を見つめていた。その心中はいかばかりだったろう。

yd_sugiyama1.jpg 広島電鉄を走る元大阪市電の913号車。製造は1957年

行き過ぎた社長コメントに社員も当惑

 広島電鉄のプレスリリースによると、取締役異動の理由は「代表取締役の独断的な業務執行により、会社組織としての正当な業務執行に支障をきたしているため、経営体制の刷新を図る」となっている。しかしこれでは具体的なことは何も分からない。独善的な業務執行とはなにか、会社組織としての正当な業務執行に支障とはなにか。

 「独断的な業務執行」の内容は、9日に開催された椋田新社長の記者会見で説明されたようだ。1つは路面電車の運賃値上げ問題。もう1つは現在広島市と進めている新路線計画だ。これはまだ取締役会で承認されないまま、越智氏が報道関係に「会社の方針」として語っていた。しかし取締役会には反対意見もあり、特に新路線については越智氏の地下建設案を支持する取締役はほかにいなかったという。

 ほかにも越智前社長は重要な契約を取締役会の承認なしで進めようとしたり、会社の方針と定まっていない案件を社長として外部に語り、既成事実にしようとしていたという。こうした重要案件について取締役会は知らされず、報道によって伝わるという事態が続いた。特に運賃改定について、2012年8月に正式発表もなく報道され、それを追う形で11月に越智前社長が会見して報道を認めた。この行為について、ほかの取締役は危機感を覚えたとのことだ。越智前社長は情報を流して市民の反応をうかがうつもりだったらしい。しかし、結果として社内にくすぶっていた火種に油を注ぐ形になった。

 椋田新社長は会見で「混乱を招いたことを(市民の皆さんに)お詫びする」と語った。「運賃値上げはいったん白紙に戻す、地下新線案は賛成者がほかにいない」。この内容は「広島電鉄が方針を撤回」と報道されたが、そもそも方針ではなく前社長の先走り発言だったわけで「撤回」ではない。

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