アマゾンに勝つための小売店舗ビジネスのあり方とは(1/2 ページ)

» 2013年01月16日 08時00分 公開
[石塚しのぶ,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:石塚しのぶ

ダイナ・サーチ、インク代表取締役。1972年南カリフォルニア大学修士課程卒業。米国企業で職歴を積んだ後、1982年にダイナ・サーチ、インクを設立。以来、ロサンゼルスを拠点に、日米間ビジネスのコンサルティング業に従事している。著書に「『顧客』の時代がやってきた!『売れる仕組み』に革命が起きる(インプレス・コミュニケーションズ)」「ザッポスの奇跡 改訂版(廣済堂)」がある。


 2013年。新しい年が明けました。

 米国小売業界の年間売上の4分の1を占めるというホリデー商戦が幕を閉じ、その結果を見て思うのは、「2013年は米国の店舗小売業界にとって大変な年になる」ということです。

 総じて言えば、ホリデー商戦中(11月、12月)のネット売上が前年比13.7%増を記録したのに対し、同時期の小売店舗の売上はわずか3.1%増でした。現在、年間を通じて、米国の小売市場売上全体にネット売上が占める割合は約7%。しかし、これが、生活者の価格感度がぐんと敏感になるホリデー商戦中に限っては、全体の16%を占めるまでにふくれ上がるのです。

 それを意識してか、今回のホリデー商戦では、大手小売店舗がこぞって、ネット・ショップとの競争を意識したさまざまな対処策を講じました。 

 ネット・ショップとの価格マッチング・サービスに始まり、同日配送サービス、店内でのWeb端末やタブレットPCなどモバイル端末を活用したお取り寄せサービス、店舗での商品ピックアップ・サービス、無料Wi-Fiサービスや店内での娯楽やサービスを充実させたショッピング体験の提供など、あの手この手をつかっての抗戦でしたが、「ネット・ショップを打ち負かすための決定打」にはならなかったようです。

 生活者の店離れの1つの原因となっているのが、「ショールーミング」と呼ばれる現象です。アマゾンを筆頭にした「ネット通販」が幅を利かせるにつれ、店舗が「ショールーム化する」現象。顧客が店舗をショールームとして利用する、つまり、店舗に行っても商品を見たり触ったりするだけで購入はせず、代わりにネットに行って購入することを意味する言葉です。

 もともとは、2010年にアマゾンが導入した「プライス・チェッカー」というスマホ対応の価格比較アプリが発端で、店舗の中にいながらにして顧客が商品価格をチェックし、ネット(アマゾン)で買うという購買行動がよく見られるようになりました。

 しかし、現在米国のスマホ人口は全体の約50%。また、ユーザーのすべてが価格比較アプリを利用しているわけではありませんから、「ショールーミング」はスマホ・アプリのせい、というよりは、そうしたツールの開発と普及によって、生活者意識が大きく変わっていっているせいだと言えるでしょう。

 昔は「店舗に行けば店舗で買い物をするもの」とみんなが思っていました。購入チャネルとして、店舗に選択肢が限られていたわけですが、それが今は、店舗で商品の見た目をチェックしたり、手で触れてみたりするだけではなく、店舗にいながらにしてネット上の市場(いちば)で価格をチェックし、希望とあらば、即座に、その場で一番安いところから買うという選択ができるようになっています。

 そうしたスマホ・アプリや「ショールーミング」のニュースが大々的にメディアに取り上げられているがために、スマホを持っていない人、すなわち、アプリを使って価格比較をしたことがない人でも、そういった報道を聞けば、「へえ、ネットの方が安いのか」という印象を受けるようになります。

 つまり、「ショールーミング」のきっかけは「価格比較アプリ」というツールかもしれないが、「店舗離れ」の雪崩現象を起こしているのは「ネットの方が安い/便利だ/品物が豊富にある」という生活者意識の変化ではないかということです。「ショールーミング」など目新しい言葉が出てくると過剰なまでに騒ぎ立てるメディアもその責任の一端を担っているといえるでしょう。

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