桜宮高校バスケ部キャプテンの自殺の原因は「体罰」ではない窪田順生の時事日想(1/4 ページ)

» 2013年01月15日 08時05分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

窪田順生氏のプロフィール:

1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。


大阪市立桜宮高校の運動部顧問教諭による暴力によって、バスケットボール部のキャプテンだった少年が自殺した(写真と本文は関係ありません)

 昨年末、大阪市立桜宮高校のバスケ部キャプテンだった少年(17)が自殺し、亡くなる直前にバスケ部顧問である男性教諭(47)に殴られていたことが発覚。学校側もそのような行為を黙認し常態化していたことが明らかになった。

 それを受けて、ワイドショーが連日のように「体罰」を取り上げ、スタジオではコメンテーターがその是非を論じているのだが、個人的にはどうにもしっくりきていない。なぜかというと、この教諭がやったことは「体罰」ではないからだ。

 必要な指導だった、とか言いたいわけではない。

 報道を見る限り、この少年はなにも“問題行動”をしていない。キャプテンとして部員を引っ張るリーダーであって、無免許でバイクに乗り停学中の部員が、授業についていけるようなフォローまでしていた。むしろ優等生であった彼を殴ることを「罰」とは呼ばない。

 試合でのミスを言いがかりに拳を振り上げる。これはもはや「いじめ」だ。しかも、本人が「他の部員が同じことをしていたのに殴られないのに、自分だけ殴られる」と両親に苦悩を打ち明けていたことからうかがえるのは、「見せしめ」にされていたという事実だ。

 いや、体育科の存在感がある高校で、長くても10年で異動というところ、15年も居座っていた日体大出スポーツエリート教諭の権力を考えれば、「公開処刑」と言ったほうが正確だろう。

 それはこの教諭本人の言葉からもよく分かる。教育委員会の調査で、彼は「強いチームをつくるためには体罰も必要」なんて言って、世間からさらなる批判を浴びた。

 これは彼があまり日本語を知らないがゆえの誤解で、体罰を「公開処刑」に置き換えてみると何を言わんとしているのかよく分かる。それは「強い軍隊」をつくる秘訣だからだ。

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