観光列車と新幹線で景気回復? 2013年の鉄道業界杉山淳一の時事日想(1/4 ページ)

» 2013年01月11日 08時02分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。


 JTBが発表した「2013年の旅行動向見通し」によると、2013年に旅する人数は3億570万人で、対前年比プラス4%の見通し。1人当たりの平均旅行回数は2.4回で、前年よりちょっとプラス。ただし、平均消費額は国内がマイナス2.4%の3万2000円、国外がマイナス0.8%の25万円になるという。この傾向は2012年度の見通しも同じ。特に今年は昨年に比べて、週末の3連休が3回も増える。ゴールデンウイークは3連休+4連休となり、それぞれを別の旅に振り向けてもいいし、間の3日を休むと10日間の大型連休となる。お盆休みは旧盆の8月13日〜15日が平日となるため、前後の1日を休むと5連休、両方休めば9連休だ。

 旅の機会は増えるけれど、単価は下がる。旅のデフレは続くということだろうか。もっとも、昨年は日本を発着する格安航空会社(LCC)が国内、海外とも続々とデビューしたし、事故で安全管理が問題となったツアーバスも相変わらずの人気だ。旅行機会が増えた理由には、こうした交通手段の低価格化が、いままで旅をためらっていた人々に訴求した、と私は考える。旅に出て、楽しさを知った人が増えたならば、それは需要の拡大である。あとは「いかに顧客満足度と単価を上げていくか」が旅行業界の課題になる。鉄道でも「移動だけではない、新たなサービス」の提供が重要だ。

「しまかぜ」と「ななつ星in九州」で「鉄道旅行ブーム」盛況に

 JTBによると、2013年の国内旅行のトピックは5つ。この中に「鉄道車両」が挙げられている。10月15日からJR九州の豪華クルーズトレイン「ななつ星in九州」が運行を開始する。冬にはJR東日本が4台目の蒸気機関車としてC58形を復活させ、「SL銀河鉄道」として釜石線を運行予定。東北観光復興の一助となる。さらに、伊勢神宮では20年に1度の式年遷宮(しきねんせんぐう)が行われ、これに合わせるように近畿日本鉄道が新型観光特急「しまかぜ」を3月21日にデビューさせる。

 このほかにも、3月24日には肥薩おれんじ鉄道で観光列車「肥薩おれんじ食堂」がデビューする。その1週間後、4月1日には北近畿タンゴ鉄道で観光列車「あかまつ」「あおまつ」が走り始める。これらの車両の共通点は、デザイナーが「ななつ星in九州」と同じ水戸岡鋭治氏であること。水戸岡氏はJR九州の車両デザインを多く手がけており、同社のイメージアップに貢献した。

肥薩おれんじ鉄道が運行する予定の「肥薩おれんじ食堂」(出典:肥薩おれんじ鉄道)

 水戸岡氏の活躍の場は全国に広がっていて、富士急行の「富士登山電車」、富山地方鉄道の「アルプスエキスプレス」、くま川鉄道「KUMA」、岡山電気軌道低床車「MOMO」「KURO」、和歌山電鉄「いちご電車」「たま電車」、井原鉄道「夢やすらぎ」なども手がけている。水戸岡氏は“ローカル線観光の救世主”ともいえる存在だが、かつて講演で「ななつ星in九州」を最後に引退とも語っており、今後の動向に注目だ。

「ななつ星in九州」の案内パンフレット。人気が高く、抽選による受付となっている

 デザイナーブランドの電車といえば、3月16日から秋田新幹線にE6系「スーパーこまち」が走り始める。こちらのデザイナーは奥山清行氏。彼は鉄道よりも自動車業界で著名な人物で、フェラーリやマセラティなどのスポーツカーのデザインに携わった。鉄道車両ではE6系のほか、東京メトロ千代田線の16000系も手がけたという。また、先に紹介した「SL銀河鉄道」の客車も奥山氏が担当する。

JR東日本が運行する「SL銀河鉄道」のイメージ(出典:JR東日本)
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