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» 2013年01月10日 08時00分 UPDATE

米国・中国・インドに見る、知的財産問題の最新動向 (1/4)

米国、中国、インドでは「知的財産」でどのような問題が起きているのだろうか。K.I.T.虎ノ門大学院で行われたセミナーの様子を紹介し、知的財産問題の最新動向をお伝えする。

[吉村哲樹,Business Media 誠]

 2012年12月15日、K.I.T.虎ノ門大学院(以下、K.I.T.)にて、知財専門家向けのセミナー「インド・米国・中国における知的財産問題〜最新動向と日本への影響〜」が開催された。

 本セミナーでは、海外ビジネスにおいて年々その存在感を増すインドと中国、そして世界一の経済大国であると同時に特許訴訟大国でもある米国における最新の知財トピックを取り上げ、それらが日本にどのような影響を及ぼすかについて、各国の知財事情に詳しい専門家によるレクチャーが行われた。本稿では、その概要を簡単に紹介する。

インド初の「強制実施権の設定」がもたらす影響とは

yd_kit1.jpg インドの弁理士バパット・ヴィニット氏

 初めに、K.I.T.で客員教授を務めるインドの弁理士バパット・ヴィニット氏によるプレゼンテーション「インドにおける強制実施権と日本企業の関わり」が行われた。

 強制実施権とは、特許権者の許諾を得ずとも特許発明を使用できる権利のことを指す。無論、この権利の行使はごく限られた一定の条件下においてのみ許される。例えば公益の保護や特許権乱用・悪用の防止、疫病流行といった緊急事態への対応など、ごく限られた目的のために例外的に認められるものだ。

 2012年3月、インドで初めて強制実施権が設定されたが、その背景や影響、権利設定に至るまでのプロセスについて、知財業界では現在さまざまな議論が繰り広げられている。なお、本件の簡単な経緯は以下の通り。

 インドの製薬会社ナトコが、ドイツの製薬会社バイエルが開発・販売するガン治療・延命薬の開発販売ライセンスを申請したところ、バイエル社がこれを却下。これに対してナトコ社はインド特許庁に強制実施権を申請し、1年足らずのうちにこれが認められ、2012年3月に強制実施権が設定された。これに対してバイエル社は現在、インド特許庁に強制実施権の取り消しを求めている。

 ヴィニット氏は、今回の強制実施権の設定が具体的にどのような法的根拠に基づき実施されたかについて詳細に解説した後、今回の措置がはらむ問題点について次のように述べた。

 「今回の強制実施権の設定は、インドの法律によって定められた3つの条件『公衆の適切な需要が充足されていない』『適正に手ごろな価格で公衆に利用可能でない』『インド領域内で実施されていない』がすべて満たされたとインド特許庁が判断したために実施された。しかし、それぞれを詳細に検討してみると、必ずしもすべての条件が満たされているとも限らない」

 例えば、当該薬には代替品があるにもかかわらず、インド特許庁は国内の患者全員が当該薬を求めていると仮定して判断を下しているという。また「適正な価格」という点においても、バイエル社はナトコ社の強制実施権の申請を受けて値下げの提案を行ったが、これも審査の過程では配慮されていない。

 このように、さまざまな論点があるにもかかわらず、今回インド企業に対して、外国企業が保有する特許に対する強制実施権が短期間のうちに設定されたことについて、現在インドに進出している外国企業からは知財リスクを懸念する声が挙がっているという。ヴィニット氏は、インドでビジネスを行う企業は今回の強制実施権設定を踏まえ、新たな知財対策が必要になる可能性を指摘する。

 「インドで弁理士や弁護士を選定する際は、より慎重に行う必要があるだろう。ライセンス申請を断る際には、今後は強制実施権のリスクを考慮する必要が出てくる。今回のインドのケースに倣って、ほかの新興国が強制実施権の設定に踏み込む可能性も考慮しておくべきだろう」

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