『鉄腕アトム』の最大の功績は何か――50周年のテレビアニメを振り返るアニメビジネスの今(1/5 ページ)

» 2013年01月08日 08時00分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

アニメビジネスの今

今や老若男女を問わず、愛されるようになったアニメーション。「日本のアニメーションは世界にも受け入れられている」と言われることもあるが、ビジネスとして健全な成功を収められている作品は決して多くない。この連載では現在のアニメビジネスについてデータをもとに分析し、持続可能なあるべき姿を探っていく。


 日本初めての30分サイズのテレビアニメ『鉄腕アトム』(フジテレビ) がスタートしたのは、今からちょうど50年前の1963年1月1日。アニメ産業が未曾有の発展を遂げることができたのは、『鉄腕アトム』を源とするテレビアニメの躍進によるところが大きい。今回は50周年を迎えたテレビアニメの成り立ちについて振り返ってみたい。

『鉄腕アトム』のインパクト

 日本で初めてのアニメ『芋川椋三玄関番之巻』が製作されたのは1917年のこと。いち早く産業化に成功した米国に比べ、徒弟制度を基本とする日本では家内制手工業の域を出ず、長らく不遇とも言っていい状況にあった。

 それを一変させたのが1948年設立の東映動画(現・東映アニメーション)である。「東洋のディズニー」を標榜する故・大川博社長が率いた同社は、1958年に満を持して世に送り出した日本初の劇場長編カラーアニメ『白蛇伝』がヒット。この成功により同社は毎年劇場アニメを製作することを決定し、日本のアニメ産業がようやくスタートできたのである。1963年には宮崎駿氏も入社、『太陽の王子ホルスの大冒険』(1968年)や『空飛ぶゆうれい船』(1969年)など、後のスタジオジブリ作品のルーツとなるような歴史的な名作を数多く生み出していく。

東映動画初期長編劇場アニメ

公開年 作品名
1958年 白蛇伝
1959年 少年猿飛佐助
1960年 西遊記
1961年 安寿と厨子王
1962年 アラビアンナイト シンドバットの冒険
1963年 わんぱく王子の大蛇退治
1963年 わんわん忠臣蔵
1965年 ガリバーの宇宙旅行
1966年 サイボーグ009
1967年 サイボーグ009 怪獣戦争
1967年 少年ジャックと魔法使い
1967年 ひょっこりひょうたん島
1968年 アンデルセン物語
1968年 太陽の王子 ホルスの大冒険
1969年 長靴をはいた猫
1969年 空飛ぶゆうれい船

 東映動画の劇場アニメによって、子どもたちの娯楽にアニメが加わったものの、年に1本の作品だけではもの足りない。そこで登場したのが毎週放映のテレビアニメである。マンガも週刊誌の時代を迎えており、毎週放映のアニメが望まれたのは時代の必然だっただろう。

『鉄腕アトム』

 そして、その栄えある第1作が虫プロダクション制作の『鉄腕アトム』であった。当時の最優秀マンガ家の最優秀原作をアニメ化したこの作品は、先行する東映動画のアニメーターからは「動く紙芝居」とやゆされたものの、当時の子どもにしてみれば好きなマンガが動くだけで大感激だった。

 『鉄腕アトム』の大ヒットにより、すぐに後発が現れる。『鉄腕アトム』から遅れること10カ月、TBSで『鉄人28号』『エイトマン』、NET(現・テレビ朝日)で『狼少年ケン』などが放映され、いずれも子どもたちの心を強くとらえた。

 にわかに生まれたアニメブームによって『鉄腕アトム』放映から2年後の1965年には14タイトルもの新作が登場、既存作品とあわせて20タイトルが放映される状況となり、制作不可能と思われていた国産テレビアニメが毎日見られるようになった。わずか2年間で民放キー局のゴールデンタイムをアニメが占拠するようになった現象からも分かるように、1963年から始まった『鉄腕アトム』をきっかけにアニメ産業は大躍進を遂げるのである。

テレビアニメ作品タイトル数推移(出典:日本動画協会)
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