「ソー活」は本当に効果があるのか――採用担当者の視点サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」(2/3 ページ)

» 2013年01月07日 08時00分 公開
[サカタカツミ,Business Media 誠]

ソーシャルグラフに注目して、その人の能力を測りたい企業

 一方、SNSを使った求人は、企業側にも大きなメリットがあります。求人する場合、今どき「誰でもいいので働いてくれ」と募集をかけることはありません。ある程度のスキルを求めているものばかりです。しかし今までのような公募スタイルだと、そのスキルを持ち合わせている人たちに出会うことはなかなか難しい。斡旋だとスキルを持ち合わせている人と確実に出会えますが、人材紹介会社に支払うフィーは安くありません。企業によってはそれだけのお金を払うことが難しいところも少なくないのです。

 SNSを使った求人は、そのソーシャルグラフ(Web上での人間関係やつながり)などを利用することで、求めているスキルを持ち合わせている人たちに求人情報を提供することができます。そしてそのメディアの特性上、ターゲットになりそうな人たちの間で情報をシェアしてもらうことも容易です。なおかつ、紹介者に謝礼が支払われるとなれば、伝播する効率はさらにアップします。謝礼額を人材紹介会社に支払うフィーよりも安くできれば、コスト効率はいっそう良くなります。

SNSを活用した「ソー活」に取り組む企業が増え、採用Facebookページを開設した企業は1年で2.5倍にもなっている

 ……と、ここまで読んで「そんなステキなサービスがあるなら、他のサービスは駆逐されるよね!」と感じた人も少なくないと思います。確かに仕組みとしては素晴らしく、成功事例も出始めているのですが、現状の日本では爆発的な広がりは見せていないのが正直なところです。理由はいくつか考えられます。

 まずは「転職したい」という意向を、他人に漏らす人は少ないということ。SNSで会社の同僚や上司とつながっている人は少なくありません。特にFacebookで、仕事上の付き合いがある人とまったくつながっていない、という人はむしろ少数派でしょう。そこで「会社辞めたい」などと書ける勇気のある人は、それほど多くない。また、そういうサービスに登録したくても、登録した瞬間に「この人はこのサービスに登録しました」とシェアされてしまう。それを見られることで「あれ、こいつ辞める気?」と、周囲が勘ぐっても不思議ではありません。以前と比べて、転職することにかなり抵抗がなくなってきたといっても、まだまだカジュアルな感じでもないのです。

 もうひとつは「抵抗感」です。友人を紹介することで謝礼がもらえるという仕組みは、一見みんながハッピーになれそうな印象を受けますが、金銭という生々しいものを友人関係の中に持ち込むことになってしまいます。転職や就職がうまくいけば良いのですが、働き始めてつらい状態になったとき、友人関係が悪くなってしまうことは目に見えています。こういう事情があると、大切な友人であればあるほど、気安く紹介できなくなってしまいます。エンジニア領域での採用では、一時期「従業員が友人を連れてくる」という仕組みを取り入れていた企業がたくさんありましたが、やはり似たような事情で下火になりつつあるようです。

 ただし、企業がSNSに注目しているのも事実。その理由は人とのつながりによる情報伝播力でも、ネットワークを利用した採用でもありません。そこに書かれている「個人情報」や「ソーシャルグラフ」に目をつけているのです。

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