ジブリなしでも好調だった2012年のアニメビジネスを振り返るアニメビジネスの今(2/4 ページ)

» 2012年12月28日 08時00分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

アニメビジネス、2012年の出来事

 ここからはカレンダーに沿って、2012年のアニメビジネスの出来事を月ごとに振り返っていく。なお、取り上げた項目はもちろんアニメ関連ビジネスのすべてを網羅しているわけではないことをお断りしておく。

1月

日にち 内容
1月期テレビアニメスタート。11年ぶりの新作『新テニスの王子様』、シリーズファイナルの『ゼロの使い魔F』、『Another』『男子高校生の日常』『輪廻のラグランジェ』など。
8日 『輪廻のラグランジェ』が国内放送と同時に米国でも無料配信開始。
10日 『009 RE:CYBORG』のキャラクターがスタッフサービスの広告に登場。
17日 ドリームワークス・アニメーションが上海にスタジオを設立すると発表。投資額は3.3億ドルで『カンフーパンダ3』を制作する予定

 『輪廻のラグランジェ』が国内放送と同時にVIZ Mediaを通じて米国でも無料配信を開始したが、こうしたケースは一般化しつつある。子ども向けアニメが基本の海外では、大人向けアニメはセンサーシップの関係もあって、テレビで放映されることはまれ。それでも、今まではDVDという販売手法があったのだが、ネットの普及もあって売上は激減してしまった。大人向けテレビアニメはネットに“潜る”しかない状況となったのだが、それを打開すべくテレビ放送と同時に海外に配信という手法が提起されたわけだ。その行為は評価されるべきものの、波及効果を含めマネタイズできるビジネスとなるかは現時点ではまだ不明である。

 10月27日公開の『009 RE:CYBORG』に関して、すでにこの時点でビジネスが発生していたことに驚く。それも、原作や今までのアニメ作品などとはまったく関係ない地点でのマネタイズである。アニメの新たな売り方を目指したと思われるスティーブンスティーブン設立の効果が早くも出たのではないだろうか(『スティーブンスティーブンが目指すアニメと広告の融合とは』)。登場人物がスポンサー広告を身にまとった『TIGER & BUNNY』にも見られたように、新しい収益源として広告の重要性が高まりそうだ。

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 ドリームワークスだけでなく、ハリウッドの中国に対する関心の高さには並々ならないものがある。2012年の興行収入が日本を抜くとされている中国映画市場への参入に、メジャー各社はかなり貪欲だ。ほとんどなすすべもなく指をくわえている日本とは大違いである。ただし、経済もエンタテインメントも政治次第の中国で、そのプレッシャーを跳ね返すには相当の体力、もしくは政府レベルのバックアップが必要ではある。

2月

日にち 内容
5日 東映アニメーションのオリジナルテレビシリーズとしては最長となった9年目の『スマイルプリキュア!』がスタート。
14日 テレビ朝日が5月からインドで『忍者ハットリくん』放映開始と発表。
17日 『借りぐらしのアリエッティ』が北米公開。

 中国とのビジネスが伸び悩む中、ほかのアジア諸国との提携が見られるようになった。テレビ朝日が博報堂DYメディアパートナーズと協力して、5月からインドで『忍者ハットリくん』放映すると発表したのもその1つ。制作は地元スタジオと共同となる。その後、パナソニックが『忍者ハットリくん』を活用したCMを流すなど、そのビジネスも広がりを見せている。

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 北米で公開された『借りぐらしのアリエッティ(英題:The Secret World of Arrietty)』は、ジブリ作品としては過去最高の1919万2510ドル(約15億3540万円)の興行収入を記録。しかし、日本での実績を考えるともの足りない数字。それもあってか『コクリコ坂から』の北米公開では、配給がディズニー系のブエナビスタから独立系のGKIDSに変更となる。

3月

日にち 内容
3日 『映画ドラえもん のび太と奇跡の島〜アニマルアドベンチャー〜』公開。興行収入は震災の直撃を受けた前年の24.6億円から36.2億円へとアップ。
20日 六本木ヒルズ森アーツセンターギャラリーで「尾田栄一郎監修 ONE PIECE展 〜原画×映像×体感のワンピース」スタート。動員数51万人以上。
22日 第10回「東京国際アニメフェア」開催。
28日 緑色のMS−06ザク豆腐販売開始。150万丁以上売れる大ヒットに。
30日 第1回「アニメコンテンツエキスポ」が幕張メッセで開幕。

 東京ビッグサイトで開催された東京国際アニメフェアは前回動員数は13万2492人だったが、今回は9万8923人と大幅に減少した。原因は表現規制に関する都条例を巡って大手出版社がアニメフェアでのキャラクター使用を許可しなかったこと、また分裂開催の形となったアニメ コンテンツ エキスポ(来場者4万1628人)にも人気が集まったためと思われる。ただ、2つのアニメイベントを合わせて14万人を集めたので、全体としては動員増とも言える。

 2013年も別々に開催する予定だが、都条例が7月に施行され、反対する根拠も薄れつつあるため、今後は統一される可能性もある。

東京国際アニメフェア公式Webサイト

4月

日にち 内容
4月期テレビアニメスタート。23年ぶりの新作『聖闘士星矢Ω』、27年ぶりのルパンシリーズ『LUPIN the Third〜峰不二子という女〜』、『NARUTO-ナルト- SDロック・リーの青春フルパワー忍伝』『黒子のバスケ』『宇宙兄弟』『AKB0048』『Fate/Zero 2ndシーズン』『坂道のアポロン』『氷菓』『夏色キセキ』『這いよれ!ニャル子さん』など。
7日 『Fate/Zero 2ndシーズン』が放映終了直後、8カ国語に翻訳され世界中に配信。
19日 ガンダムフロント東京オープン。公式カフェの2号店併設(『なぜガンダムは海外で人気がないのか』)。

 4月にスタートしたテレビアニメは力作が多かったが、特に印象に残ったのは『LUPIN the Third〜峰不二子という女〜』と『坂道のアポロン』。限られた制作環境にありながら、「そこまでやるか」という心意気にあふれており、ともに2012年を代表する作品となった。

 また、『あらしのよるに』は60%がシンガポール出資。これも中国以外のアジア諸国との提携が進みつつある一面だろう。

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