「滅亡」を煽らなくてはいけない人々の“オトナの事情”窪田順生の時事日想(2/3 ページ)

» 2012年12月25日 08時03分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

予言に対して、おおらかな日本人

 この謎が解明できたのは、記者になってからだった。

 記者というのは、資料として過去記事をスクラップする。それらのなかには「来年の経済はこうなる」とか「次の総裁はこうだ」という“予言”も含まれているのだが、今読むとたいがいハズれている。先日も3年前の新聞のキリヌキを整理していたら、「来年からハイパーインフレが起きる」みたいなことを某論説委員が自信たっぷりに語っていた。

 しかし、どこかの論説委員が吊るし上げにあったとかという話は聞かない。「そんなことボク言いましたっけ?」みたいな顔でテレビに出て、新たな予言を披露している。そういうエラい人たちの姿を見ていると、缶コーヒーの「BOSS」に出てくるトミー・リー・ジョーンズではないが、「この星の人間は予言がハズれることに対して寛大だ」という真理がみえてくる。

 だが、同じ星でもあまり寛大ではないのが欧米人だ。過去にハズれた予言を執拗に調べ上げて「専門家の予測はサルにも劣る」なんて笑い者にしている。

 例えば1914年、英国の著名なジャーナリストであるH.N.ブレイルスフォードが、「私見を述べると、今後、既存の6大国の間で戦争は勃発しないだろう」と述べた途端に、第一次大戦が開戦したのは今も語り草となっている。

 予言に対してはおおらかな日本だが、この手の報道は正確さで他の追随を許さなかった。

 例えば英国のジャーナリストが赤っ恥をかく少し前、日本の新聞は日露戦争開戦をいちはやくスッパ抜いた。その取材秘話が某新聞社の社史にのっている。

 当時、元老の山縣有朋は日露交渉に賛成する姿勢をみせていた。開戦論者である外務省官僚としては山縣をどうにか説き伏せたい。そこで某新聞社の主筆を呼びつけて、「対露強攻策で問題解決を図るよう働きかけてほしい」と依頼。要するに戦争をするよう尻を叩いてくれというのだ。結局、主筆は山縣を見事に説得。元老は主筆を前にして頭を垂れて涙を流した、らしい。

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