3秒で面接の合否は分からない――就活都市伝説に隠された、本当の意図サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」(2/3 ページ)

» 2012年12月24日 10時00分 公開
[サカタカツミ,Business Media 誠]

 さて、採用したくない人を察知できるかもしれないという話を、必要以上に膨らませて「3秒で合否が分かる、採用担当者は面接のプロ」という話を作り上げることで、誰にどんなメリットがあるのでしょうか。

 実は、採用担当者、就活生双方に、意外なメリットがあります。まずは、採用担当者はメディアなどにそういう話を「話してください」といわれることによって、自社や自らのブランディングができるのです。名物人事と呼ばれるタイプはこの典型です。メディアに露出することで、自社の採用活動に寄与できる。広告塔のような感じでしょうか。採用担当者たちは、就活生に自分の会社を知ってもらうために必死になっています。名物人事になってしまえば露出の機会も増えますから、企業の知名度も上がるというわけです。なので、分かりやすく、キャッチーな話をするほうがいいのです。

 一方、3秒伝説(省略し過ぎですか?)は就活生にもメリットがあります。複数の学生を一度に面接する場合、面接官が話す量に偏りが出てしまうことがある。「他の人たちに比べると自分は大して話を聞かれなかった」という経験をした人も少なくないでしょう。ただし、それが「なぜ」なのか理由が分からない。企業がフィードバックをしてくれるわけでもありませんし。そこで都市伝説の出番です。自分を納得させるためには、ある程度の根拠がありそうな理由が欲しい。ダメだった理由を「まあ、面接官は3秒で人を見抜くプロだから、ダメだったのか」と納得して次に進めるケースもゼロじゃない。嘘も方便ということわざは言い得て妙だなと、思えてくるのです。

「3年で3割退職する」にも、裏がある

 「最近の新卒は、3年後には3割も辞めてしまう。それはナビサイトを中心とした“就活というシステム”がミスマッチを引き起こしているからだ」という都市伝説も耳にしたことがあるでしょう。インターネットが普及して、そういう傾向はさらに高まっているのだと。これも眉唾な話です。

 そもそも、入社後3年で3割辞めるなんて話は、ずいぶん昔からいわれていたことで、業界関係者から言わせると、今さら感が強い。実際はどうなっているのかというデータは、厚生労働省のサイトにある「新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移」(参照リンク、PDF)をみれば分かるでしょう。1987年からのグラフを見ると、当時の大卒者の3年後の離職率は28.4パーセント。1995年に32.0パーセントと3割を超えますが、2004年の36.6パーセントをピークとして、四割に達することはありません(ちなみにリクナビの前身サービス開始は1996年)。もう、ずっとそのあたりの数字を行ったり来たりしているのです。

新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移(出典:厚生労働省)
新規大学卒業者の事業所規模別卒業3年後の離職率の推移(出典:厚生労働省、クリックすると全体を表示)

 一方で、3割という数字に目を奪われていたら、大切なことを見落としてしまうというデータも、厚生労働省のサイトに掲載されています。それは「新規大学卒業者の事業所規模別卒業3年後の離職率の推移」(参照リンク、PDF)です。このデータを見ると、3割という離職率が「意外に柔らかい」数字であることが分かるでしょう。従業員数が少ない事業所の離職率はとんでもない数字です。5人に満たない企業に入社した大卒者の6割程度は離職していますし、30人未満の企業でも半数は離職してしまう。これも2003年から10年程度の経過を見ても大した変化はありません。どんな企業でも3割は3年程度で離職してしまう、というデータだけを鵜呑みにして、ある程度のミスマッチは覚悟した上で働かせること、そして就活生をやみくもに中小企業に目を向けさせることはあまり正しくないということが、この数字から一目瞭然です。3年働けない環境で、次のステップに進むための能力やスキルが身に付いた状態になっているとも思えないですから。

 3年で3割辞めてしまうというデータは、採用担当者たちにとって実はとても都合の良いデータです。なぜなら、「ある程度の早期離職者が出るのは仕方がない」という根拠に使えるからです。いつの時代も、どんな時でも、そういう学生はいる。だから仕方ない……という感じでしょうか。世間で流布しているデータよりも自社の成績が良ければ、よく頑張っていると言われるかもしれない、そんな状況なのですから。

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