丸を描く仕事をしませんか。郷好文の“うふふ”マーケティング・最終回(1/3 ページ)

» 2012年12月20日 06時30分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など。中小企業診断士。ブログ「cotoba


 あなたの仕事は「丸い」だろうか。丸く「つながって」いるだろうか?

 前回の本連載で、天職について書いた。天職とは、誰かの「ありがとう」という感謝を、心から楽しめることである。天職はどこでするのか。出身地や都会だろうか。たいていの人は日本のどこかだろう。海外で働く人もいる。どこで働こうが共通点がひとつある。それは「地球上」であること。地の球と言うように、そこは丸い。であれば「丸くありたい」と思うのが自然ではないだろうか。

もがくのは影にすぎない

 ひょんなことから読み出した、吉川英治著『宮本武蔵』。昭和25年刊、書棚の奥でホコリまみれになっていた本だ。持つ手も汚れ、クシャミも出る古本にハマった。

『宮本武蔵』昭和25年刊

 武蔵は負け知らずと言われた。剣豪の行く手には決闘相手の血しぶきが上がり、ひとり対何十人でも負けない。勝つために生涯を捧げた。だが名声が高まる一方、敵も増える。究めれば悩みも増える。剣の道はどう歩めばいいのか? 何のために究めるのか? 生活と世間と剣を、どう一致させればいいいのか? 彼は悩みに悩む。

 第十巻の冒頭に次の話がある。

 どう生きるか悩んだ武蔵が、師と仰ぐ愚堂和尚の後を追い、悩みを解消する言葉をもらおうとする。和尚に乞うが無視される。ついに旅する和尚の後をついてゆく。何日経っても言葉はおろか、振り向いてもくれない。痩せてシラミまみれになり、寺の入り口に寝る日々が続く。ある日ついに和尚にすがった。「お言葉を!」。すると和尚は土下座する武蔵の周りに、小枝で円を描いて結んだ。それだけするとスタスタと去っていった。

 武蔵は「おのれ…俺がこれほど苦しみもがいているのに、ひと言もくれない」と怒り狂って手を振り回す。すると自分の影が狂い、悶えているのを見た。その影が映る地の上には、和尚の引いた円があった。円は丸い。どこまでも丸い。円は天であり地であった。影はもがき苦しんで歪んでいるが、天地は何事も無いようにひたすら丸いのである。

 武蔵は気づいた。もがくのは影に過ぎない。自分の実体ではない。実体は何も変わっていない。影が円の内と外で乱れているだけだ。影の苦しみに惑わされているだけだ。こう悟ると、武蔵は苦悩から逃れることができた……。

 そう。丸くあればいい。輪がつながるようにすればいいのだ。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.