“遊技機”から“メディア”へ、『ぱちんこAKB48』が示した可能性(5/5 ページ)

» 2012年12月19日 12時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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画期的な機種『ぱちんこAKB48』

藤田 このように今までは使う側だったのが、作る側にも出ていこうと盛んにしていて、だんだん広がりが出てきているという中で登場したのが『ぱちんこAKB48』です。この機種は非常に面白い取り組みをしています。

『ぱちんこAKB48』

 具体的に説明すると、まずパチンコ機を新曲発表のメディアにしてしまったのです。通常、新曲を発表する際にはCDを出して、PVを流してというのが普通ですが、『ぱちんこAKB48』の中で毎週1曲ずつ、12週連続で新曲を発表したのです。しかも発表するのは、パチンコ台の中だけです。ただ、ぱちんこAKB48は全国で20万台売れたので、メディアとしてはかなり強力ですよね。

 また、推しメン選択機能ということで、好きなAKB48のメンバーを選ぶことで、そのメンバーが中心となって出てくるようなコンテンツ開発がされています。

 そして、1時間に1回、重力シンパシーというコンサートが行われます。1時間に1回、店内の『ぱちんこAKB48』の機種が一斉に同じ曲を流すんです。秋葉原には『ぱちんこAKB48』が100台以上入っているパチンコ店があるのですが、100台以上が一斉に同じ曲を流して動き始めると壮観ですよね。パチンコをするしないに関わらず、見ているだけで曲を気にしてしまいます。パチンコという枠を超えて、メディアとして面白いことになっています。

 「すげえ、新曲12曲か。さすがパチンコ業界、カネにモノを言わせたな」とパチンコで遊ばない人は思うかもしれません(笑)。パチンコ業界にもそう思っている人が多いです(笑)。「カネを持っていれば何でもアリか」というやっかみの声も聞かれますが、実はAKB48が売れるようになったから、急にこれをやろうとなったわけではありません。

 先ほど言いましたように、今の遊技機開発には1年半〜2年という時間がかかります。『ぱちんこAKB48』が開発されるもともとのきっかけは、秋元康さんとこのメーカー(京楽産業)との付き合いからです。

 秋元さんは過去に何度もヒットメーカーとなりましたが、AKB48を立ち上げた時は全然ダメだったんです。どこにも取り上げてもらえなかったのですが、そのころからすでにコラボを始めていました。姉妹チームとして名古屋の栄を拠点にするSKE48や大阪の難波を拠点にするNMB48がありますが、これらを運営しているのはそのメーカーの関連子会社です。また、秋葉原駅前にあるAKB48カフェも、「一緒に運営しないか」といろんなところに秋元さんは声をかけたのですが、どこもうんと言ってくれず、結果的にそのメーカーが運営の支援をしたということがあります。

 実際、AKB48が売れる大きな要素となったのが、メディアへの露出です。テレビCMやさまざまなイベントのスポンサーに数多くパチンコメーカーが付いているのですが、それによってメディアへの発言力も強くなっています。そのため、「この企画にAKB48を使ってよ」と言われたら、テレビ局のプロデューサーは「うーん、どうしようかな」と思っていても、営業サイドから「お願いだから使ってよ」と頼まれたら、「まあどっちでもいいんだったら、AKB48を使おうか」という感じで、使い始めてくれるようになりました。出れば出るほど親しみがわいてきて、人気が出てくるというのがこの世の常で、これだけ有名なキャラクターになりました。これを支えたのが、このメーカーでした。

 実際、『ぱちんこAKB48』の開発を始めたころは、ここまで売れるとは思っていなかったようです。最後に個々のメンバーのコンテンツを撮るとき、人気が出過ぎて、全員を一度に撮るための日程をおさえるのが至難のわざだったそうです。今後の可能性が広まったというのが、『ぱちんこAKB48』だと思います。

 複合エンタメのコラボということでは、ラスベガスという街があります。行ったことはなくても、エンタテインメントの街だという認識を持たれていると思います。世界一のエンタテインメントシティと言ってもいいでしょう。

 昔、ラスベガスは何もない砂漠でした。しかし、近くに金が出てきたので荒くれ者が集まってギャンブル場が発達したという歴史があります。マフィアが仕切っていたのですが、1980年代後半から1990年代にかけてマフィアを排除して、エンタテインメントシティに変わっていきました。その際、ギャンブルだけではなく、シルク・ドゥ・ソレイユなどのショーやショッピングセンター、グルメ、などさまざまなエンタテインメントを1カ所に集めたことで大きくなりました。

 ただ、ラスベガスが大きくなれたのは、カジノという収益を生むエンジンがあったからです。ラスベガスにオリジナルの劇場を作ってもうかるかというと、絶対にペイしません。ただ、多くの人が来てくれたらカジノにもお金を落とすということで、劇場の建設費用をカジノ側が負担する、あるいはショッピングセンターのテナント料の一部をカジノ側が払うという形でラスベガスは成り立っています。そういう形でパチンコというビジネスが、ほかのビジネスとコラボできるかもしれません。

 今までパチンコには「特殊だ」「怖い」「一緒にやりたくない」という印象もあったかと思います。いまだにパチンコ店に足を踏み入れたことがない人もたくさんいますし、版権でも『ドラえもん』『ワンピース』『サザエさん』といった作品の許諾は出ていません。やはり「パチンコは嫌だ」と言われています。ただ、AKB48という親しみやすい人たちが出たことによって、大分ハードルは下がったようにみえます。

 ラスベガスのカジノとは違って、パチンコは全国津々浦々に店舗があるロケーションビジネスです。だから、そこに行くとこういうものが宣伝できる、コラボできるというのは面白いのではないでしょうか。コンビニがパチンコ店と一緒にやろうということもあって、これは今でも続いています。

 収益エンジンがあるので、映画を作ったりスポーツイベントを一緒にやったりと新しいチャレンジができます。AKB48のようなチャレンジができる可能性があるのではないかと、業界に関わる人間として期待しています。

 最後にエンタテインメント産業の今後ですが、パチンコに限らずいろんなライブエンタテインメントをもっと作ってほしいと思います。ビデオや携帯ゲームのように、その時でしか味わえないようなもの、その場所でしか味わえないようなライブエンタテインメントが今後もっと重要視されるのではないでしょうか。海外でのパチンコやパチンコに類するものの発展というものも含めて、エンタテインメント産業としてもっと頑張ってほしいです。ちなみにパチンコ店を運営するダイナムが先日、香港証券取引所に上場して、世界に出ていくチャンスも広がったかなと思います。

 今の世界標準のカジノでは、パチンコという遊びはルール上できません。ただ、今後少しやり方を変えるなり、あるいは働きかけて世界標準そのものを変化させられれば、パチンコやパチスロがカジノに登場することもあるでしょう。また、アジア系のカジノでは世界標準にのっとっていないカジノも結構あります。だから、アジア系のカジノであれば、パチンコやパチスロをそのまま遊ぶことも可能かと思っています。海外上場が出てきたこともあって、海外の投資家からの日本のパチンコ産業への投資もうながしているので、今後もしかするとそのようなチャンスもあるかと思います。

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