自民党は“日本を取り戻せる”か?藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2012年12月17日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 自民党の圧勝、単独過半数という結果に終わりそうな2012年の総選挙。結果の数字を見る限り、日本は大きく「右」にかじを切ることになる。

 憲法改正だの国防軍だの強硬な主張をする安倍内閣が成立すれば、外交的には、当然、尖閣諸島を巡って中国と厳しく対立することになるだろうし、韓国が実効支配する竹島についても領有権の主張を改めて繰り返すのだろう。北方領土についてはロシアに領土返還がなければ日ロの経済協力にもかげりが見えるなどと脅かす可能性だってある。

 今年は外交関係で領土問題が突出した年だから、その意味では想定された結果ということもできるが、実際には右にかじを切ったからといって領土問題が「有利」に運ぶとはとても思えない(例えば、維新の石原代表が主張するように、尖閣に船だまりを建設しようとすれば、中国ではこれまでにない反発が生まれる可能性が高い)。万が一、中国と砲火を交えるなどという話になったら、日本経済に対する打撃は計り知れない。

 外国から見れば、最も不思議なのは原発に関する国民の選択だろうと思う。自民党は、原発の可否については3年間かけて判断するとしている。原発をめぐる議論では、民主党政権ももともとはこれまでの30%という原発依存度を15%ぐらいに引き下げという目論見だった。しかし国民の原発に対する忌避感情があまりに強かったために、2030年代に原発依存ゼロを目指すと言わざるをえなくなったという経緯がある。

 そうすると民主党に「ゼロ」を公約させた同じ国民が、原発政策の決定を先送りする政党を選ぶことで、原発継続を望んだということになるだろう。何と言っても自民党は性急な原発廃止は経済に悪影響があると主張してきた。経団連などはほっとするだろうが、外国から見れば、この有権者の「心変わり」と首相官邸のあの週末デモの関係をどう解釈すればいいのか悩ましい。

 米国はほっとしているに違いない。日本が原発を早急に廃止するような方向に動けば、米国の原子力政策も大幅な変更を余儀なくされるところだった。それだけではない。日本の原子力技術が流出することを非常に憂慮していたからである。これで一応は原発問題に関して「時間を稼げる」ことになったと判断しているはずだ。

 もっとも自民党の前にすぐに原発問題は立ちはだかるだろう。敦賀では原子炉の真下に活断層があるという原子力規制委員会の判断が下されれば、これを廃炉にするかどうかという決断を迫られるからだ。もし廃炉にするとなるとその費用をどうするか、廃炉から出る放射性廃棄物をどうするかという民主党政権を悩ませた同じ問題に直面する。

 エネルギーではもう一つ、再生可能エネルギーをどうするかも大きな問題になる。電力会社からは現在の買い取り価格を何とか下げてほしいという陳情が殺到する。値上げは抑え込まれる、買い取りは強制されるでは電力会社はたまったものではないからだ。もし自民党政権が再生可能エネルギーの買い取り価格を下げたり、あるいは買い取りを制限できるようにすれば、メガソーラー企業などはたちまち経営がおかしくなるだろう。それをどのように調整するのか、これも難しい選択を迫られるのである。

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