ネットでできる選挙の話、ネットでできない選挙活動どうなるネット選挙!? 津田大介が聞く(3/3 ページ)

» 2012年12月14日 14時20分 公開
[津田大介,津田大介メールマガジン「メディアの現場」]
前のページへ 1|2|3       

津田さんの「今回の選挙では○○党に!」というツイートは違反?

津田: 今話題になっているのは、選挙期間中の情報発信です。候補者や有権者は選挙期間中に、ブログやTwitterなどでインターネットを使って情報発信すると、公職選挙法第142条の文書図画頒布に当たり違法行為になるということなのですが、多くの人はどこまでならOKでどこからがアウトなのか分からない状態だと思います。具体的に、どこが線引きになるんでしょうか?

三浦: 候補者のほうの対策は徹底されていますね。公示日前日の23時59分まではWebサイトやブログ、Twitterを更新するけれども、公示日当日から一切動かさないようにとアドバイスしています。一方で、有権者である一般の人たちはどうかというと、自分の行為が選挙違反にあたるかどうかよく分かっていない人もいますので、つい「東京1区のみなさん、ぜひ◯◯候補に1票を!」と発信してしまったりします。私信という形で普段から付き合いのある仲間にだけ伝えるのであれば良いのですが、そうではなくて不特定多数の人に発信したと見なされると、公職選挙法違反に問われる可能性があります。

津田: 例えば、僕はいまTwitterで23万人ぐらいのフォロワーがいるんですが、当然それは不特定多数ですよね。僕が「今回の選挙では○○党に入れましょう!」とかツイートするとアウトになる可能性が高いですか?

三浦: 23万人ですか。ちょっと多いけど「この党に入れましょう」といった程度なら問題にならないと思いますが。インターネットが規制されている一方で、電話はかけ放題で、何を話してもいいんですよ。選挙運動員が必死に電話をかけて選挙運動しようと、録音した音声を流すオートコールを使って何千件電話しようが、問題ありません。

津田: 言われてみれば、選挙期間になると突然学生時代はほとんど付き合いがなかった小中学校のクラスメイトから電話が来て「○○党の○○さんに入れてくれ」って依頼が来たりしますもんね。でも、電話を使った選挙運動はいいのにインターネットを使った選挙運動はダメというのも、おかしいように思えます。

選挙の話題、ネットでは禁止? 「冗談じゃない、どんどん話をしたほうがいい」

三浦: Twitterを含め、ネットを使った選挙運動がなぜダメかというと、ブログやTwitterなどのコンテンツが画面上に表示され、かつプリントアウトが可能なため、公職選挙法上の「文書図画」にあたると解釈されているためなんですね。公職選挙法では選挙期間中、選挙運動のために頒布できる文書図画を通常葉書と2種類の法定ビラに限定していて、しかもそれらは選管に事前に登録しないといけないんです。つまり、通常葉書とビラ以外の文書図画を不特定多数に配ることはできない。だから、ネット上で選挙運動をしてはいけないんですね。

津田: その話を聞くと、選挙についてTwitterやブログで何か書くこと自体やめようって人が増えそうですが……。例えば、有権者が自主的に候補者の政策を比較する記事をブログやTwitterに書いて、情報発信することはどうなんでしょう?

三浦: まったく問題ないですよ。なぜかというと「特定の候補者を当選せしめる行為」ではないですから。僕は若い人たちに、例えば「東京知事選挙比較.com」とか「第46回衆院選候補者比較.com」のような比較サイトをどんどん立ちあげてほしいと思っています。はじめは個人の好き嫌いによって多少のバイアスがかかるかもしれませんが、そういった行為自体は問題ありません。「特定の候補者に投票してね」というものや、「人気投票」といったものでなければ大丈夫です。

津田: となると、選挙期間に入る前に政治家がブログやTwitterに書いていたものを、選挙期間中にTwitterでリツイートしたり、Facebookでシェアすることも大丈夫なんですね。

三浦: 問題ありません。ただし、内容が選挙運動になっていないものに限られます。

津田: なるほど。誤解していた人もいるかと思うのですが、つまり公示期間中に選挙の話をまったくしてはいけないということではないんですね。

三浦: 冗談じゃないですよ。どんどん選挙の話をしたほうが良いんですよ! ただ、インターネットを含めて文書図画の頒布を禁じるという古い法律で規制されていますので、いつもの調子でブログやTwitterに「◯◯候補に投票してください!」と書いてしまうと、不特定多数への呼びかけ、つまり選挙運動になってしまいます。そういう場合は公職選挙法違反に問われる可能性がありますね。

津田: なるほど。特定の候補者への投票の呼びかけにならないように注意しないといけないということですね。では「◯◯に投票しよう」ではなくて、「僕は◯◯に投票しようと思います」という言い方であればどうでしょうか?

三浦: 問題ありません。先ほども申し上げましたが、選挙運動は「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得または得させるために直接または間接に必要かつ有利な行為」と定義されています。例えば、「東京1区で立候補している◯◯さんにぜひ投票してください!」と書いてしまうと、選挙区と候補者を特定して投票をお願いしていますから、選挙運動になってしまいます。ですが「僕は東京1区の◯◯さんに投票します」というのは、あくまでも個人の態度の表明なので選挙運動にはあたらない。「東京1区でがんばっている◯◯さんは素晴らしいね」というのも、当選を目的として投票を得ようとしているわけではないでしょうから、問題ないでしょう。

橋下徹大阪市長のTwitter更新はアリ?

津田: 他人に依頼していないということが1つの判断基準になるということですね。もう1つ気になっているのが、今回の総選挙で、橋下徹大阪市長(@t_ishin)自身が代表代行を務める日本維新の会からは出馬していないので、Twitterをガンガン更新しているんですが、あれは大丈夫なんですかね?

三浦: 今の段階では問題ないと思います。橋下さんは今回の衆院選に立候補していませんから。「日本維新の会に投票して」と言ったら、比例代表もあるので公職選挙法違反に問われますが、TPPや原発などの政策について意見をつぶやくのは自由でしょう。

津田: 橋下さんはそのあたりのことを分かっていてやっているわけですね。

三浦: 弁護士なので、そうだと思います。

津田: それにしても、選挙におけるネット利用の制限って、時代遅れのバカげた規制だと思うんですが、三浦さんは今後公職選挙法をどのように改正すればいいと思いますか?

三浦: たくさんあるのですが2点に集約していうと、まず、このネット規制を一刻も早く解禁すること。有権者がもっとも情報を求めている選挙期間中にインターネットを更新できないなど、ばかばかしいにもほどがあります。世界にも大きく遅れを取っている(注7)恥ずべき状況を早く脱するべきでしょう(注8)。もうひとつは、戸別訪問の禁止(注9)を解除すること。米国、英国、欧州などの主要国をはじめとする世界各国で、戸別訪問は禁じられておらず「ドア・トゥ・ドア」の選挙は常識となっています。こういった日本の非常識を早く是正してほしいですね(注10)。

津田: とても明確かつ分かりやすいご提言ですね! 三浦さん、今日はありがとうございました。

三浦: ありがとうございました。

注8:三浦氏は著書『ネット選挙革命:日本の政治は劇的に変わる』において、「日本では選挙期間中にインターネットが使えない。私が米国や韓国などの選挙コンサルタントにそのことを話すと、彼らは一様に『信じられない』と非常に驚き、次いで呆れた顔をする。よほど『政治後進国』だと思うのだろう。日本の選挙でのネット規制は、まさに中国並みと見られてもしかたない」と語っている。
注9:国立国会図書館発行の「レファレンス(PDF)」(2010年11月号)に収録されている「我が国の選挙運動規制の起源と沿革」という記事に戸別訪問が禁止された理由が詳細に記されている。
 日本において戸別訪問が禁止されたのは1925年に制定された衆議院議員選挙法(普通選挙法)を起源としている。禁止を定めた理由は同年に内務省が刊行した刊行した『衆議院議員選挙法改正理由書』に記載されている。
注10:2012年の米大統領選でも戸別訪問が勝敗の鍵を分けたと言われている。2008年からオバマ大統領の選挙運動の草の根ボランティアを手伝っている海野素央明治大学政治経済学部教授は、日本で国民の政治参加意識を高めるため、戸別訪問を解禁すべきという考えを持っている。
 戸別訪問解禁の勧め 海野教授の米大統領選リポート31(YouTube)
 戸別訪問は2400件 オバマ陣営を支える日本人(日本経済新聞)
 米大統領選:ネット時代にも最も有効な戸別訪問(JB PRESS)

 この記事は、2012年12月4日に放送されたJ-WAVE『JAM THE WORLD』「CUTTING EDGE」(出演:三浦博史、津田大介、企画構成:きたむらけんじ)の内容を再構成したものです。公職選挙法違反――選挙期間中にやってはいけない行為とは(津田大介の「メディアの現場」vol.52)より転載しました。

入会案内:津田大介メールマガジン「メディアの現場」

 テレビ、ラジオ、Twitter、ニコニコ生放送、Ustream……。マスメディアからソーシャルメディアまで、新旧両メディアで縦横無尽に活動するジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介が、日々の取材活動を通じて見えてきた「現実の問題点」や、激変する「メディアの現場」を多角的な視点でリポートします。津田大介が現在構想している「政策にフォーカスした新しい政治ネットメディア」の制作過程なども随時お伝えしていく予定です。

  • 発行周期:毎月 第1〜第4水曜日(年末年始を除く)
  • 発行形式:PC・携帯向け/テキスト形式 + ePub
  • 購読料:月額630円(1配信あたり約157円)

 詳細はこちらのページをご確認ください。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.